好きになったのは、いつだったか。そんなの随分と昔すぎて思い出すのも難しい。私は、この人が好きだ。



「おやリティル、こんなところでどうしました?」
「と、特に用事はないんですけど…大佐に、お会い、したくて」


ふむ、と少しばかり考えるそぶりをしたその人は、すぐににこりと笑みを浮かべて「どうぞ」扉を開けた。

大佐の執務室には大量の書類と本が積まれてあって、きっと、いや絶対陛下から回ってきた面倒なものだろうと思う。そういえば私の執務室にも陛下から回された書類が沢山積まれていたのを思い出した。


「珍しいですね、貴女が私の執務室に来るのは」
「そう、ですね。私も師団を預かる身ですから、そう簡単には動けませんし」


確かに、とくすり笑った大佐に促されて、向かいの椅子に腰掛ける。コーヒーで構いませんか?とカップを持って問われれば、はいと答えた。


沈黙。


沈黙が、少しだけ怖い。
仕事しろって思われてるだろうか、会いたかったからなんて言われて、気分を害してはいないだろうか。ことん、と置かれたカップにはコーヒーというには些か白すぎるそれ。顔を上げると、大佐はにっこりと笑った。


「ミルクに、砂糖は3つでしたね」
「覚えて、たんですか」
「えぇ、まぁ」


向かいの椅子に腰を下ろした大佐は、何も言わずにカップに口をつける。


「大佐」
「はい」

「また、すぐに発つんですか」
「そうですね、明後日には離れます」


そう、ですか。とカップを持ったまま俯く。また、いなくなっちゃうんだ。ついこの間、アクゼリュスの崩落に巻き込まれて亡くなったと聞いたとき、本当に、本当に怖かったのだ。想いを伝えぬまま、もう会えないのかと思ってしまった。この人は生きている、そう信じていた、けれど、怖かったのは事実だ。


「…私も」
「はい?」

「私も、連れていってください」


まっすぐに、大佐の目を見て言い放つ。大佐は目を見開いたが直ぐにいつも通りの笑顔で「困りましたねぇ」と言う。あぁ、無理か、わかっていたけど。


「同行を希望する理由、聞いても?」
「構いません」

「では、何故?」


眼鏡のブリッジを押さえて私を射抜く紅い瞳に、鳥肌が立つ。同行を希望する理由は簡単だ。好きだから傍にいたい、好きだから怪我をしたとき直ぐに治したい、もしも亡くなってしまうなんてことがあったら嫌で、怖くて。離れてる時間は長くて、寂しくて、


「大佐をお慕いしています、だから、離れたくない、傍にいさせてほしい」


それが理由です、と告げると、大佐はいつもとは違う、穏やかな笑みを浮かべて立ち上がり「合格です」と私の頭を撫でた。


「貴女が私に好意を持っているのは知っていましたが、直接言われると嬉しいものですね」


ちゅ、とリップノイズがしたと思えば、大佐は私の額に唇を寄せていた。近くなった顔、音がするんじゃないかという程の勢いで顔を真っ赤にした私を笑って、


「私も、貴女が好きですよ」


耳元で囁かれた言葉は、私の全てを溶かすように、甘く、艶のある声だった。



同行希望者



(皆さん、これから同行することになったリティルです)

(は?ちょジェイド俺は聞いてないぞ!)
(陛下は黙っていてください決定事項です)



20130311

大佐を書いたのは数年ぶりです…。

このヒロインさんは中佐さん。4師団の師団長さんで、まだ20代と若い子です。
大佐がずーっと好きでアクゼリュス崩落後に大佐達がグランコクマに来たときのお話でした。

シリーズとかにしたら面白そうだなぁしないけど