揺らぎのないまなざし

 あっという間に授業開始時間となり、クラスメイト全員がグラウンドβに集まった。ずらりと並んだ全員がそれぞれの特注コスチュームに身を包む姿はすごくカッコよくて、うわあと小さく声を上げながら周りをぶんぶんと見回してしまう。今度みんなとツーショ撮ってもらおう……。密かに決意し、まずは響香とだからね、という意味を込めて無言で隣を見つめる。言いたいことが通じたのか後でね、と口パクで言う姿に以心伝心だ!とテンションが上がってにやけてしまったのは言うまでもない。

「さあ、戦闘訓練のお時間だ!」

 曰く、屋外よりも屋内の方が凶悪ヴィランの出現率は高いらしい。強盗、監禁などと言った単語にぞわりと微かな恐怖を感じて腕をさする。今日の戦闘訓練はヴィラン組とヒーロー組に分かれた実戦形式。くじによってチーム分けが行われ、私が引いたのはGチーム。誰と一緒になるのかとあたりを見渡し、チームメイトを探す。まだまだ話したことがない人は多く、名前は一応わかるけれど顔と一致しているかと言われると怪しい。今回の授業はお互いに協力することでをもっとその人のことをよく知れる良い機会だ。

「響香、チーム何だった?」
「Gだったよ、弓弦は?」
「え、ほんとに!?私もGだよ……!」

 いきなり響香と組めるなんて、もしかして今日で私の運使い切ってないだろうか。見知った友人と組めるのはとても心強い。それに私と響香ならお互いの個性を知っている。共闘したことはないけれど、きっと連携もバッチリだ。これならどんな相手にも勝てるチャンスがあるかも。

「俄然楽しみになってきたね!」
「あの、俺もいるんだけど……」
「わ、ご、ごめん上鳴くん……!」

 まだ見ぬ相手チームに対抗心を燃やしていると、控えめに声がかけられた。A組は人数の構成上、3人1組がひとつだけ出来る。それはどうやらここのチームだったようだ。しょんぼりした顔で手を小さく挙げる上鳴くんにぺこぺこと謝りながら、早速3人で作戦を練っていく。上鳴くんの個性は"帯電"、すごく強力な個性だ。

「3人で頑張ろうね、目指せ勝利……!」
「目キラッキラしてんな……白羽ってこんなかんじだったっけ?」
「いや、多分テンション上がってるだけ」

 再びくじで引き合わせられた最初の組み合わせは、AチームとDチーム。緑谷くんお茶子ちゃんのAチームと、爆轟くん飯田くんのDチーム。まだ見ぬみんなの個性に胸を膨らませつつ、近くにいたお茶子ちゃんに頑張ってね!と声を掛けてみんなと共にモニタールームへと移動する。グラウンドもそうだけど、モニタールームもすごく本格的で、なんだか映画の中に出てくる施設みたい。雄英は本当に施設が充実している。遠距離型の私にとって、普段生活する範囲内での訓練はなかなかに難しい。自分の個性がどこまで伸ばせるか、それを知るためにここを選んだことはやはり正解だったと思う。

「それではAコンビ対Bコンビによる屋内対人戦闘訓練、スタート!」

 みんなでじっとモニター画面を見守る。その戦いは、素人目にもハイレベルであったと思う。爆豪くんの奇襲、緑谷くんの反応、目まぐるしく変わっていく展開に目が離せない。無意識に止めていた呼吸を思い出したように吸い込み、小さく喉がひゅっと鳴った。爆豪くんの圧倒的なパワーは相対すると絶対に怖いと思えるほど強力な個性だ。けれど、緑谷くんの機転の良さでパワーの差を補い、互角に戦えているように思える。すごい、すごすぎる。そして、なんてかっこいいんだろう。ゆらめく爆炎の中、ふたりの決着がつくまでずっと、彼らの戦いを見ることを止められなかった。熱中するあまり、見開きすぎた瞳が乾燥して涙ぐんでしまうほどに。
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