愛らしさを詰め込んで

 ヒーロー基礎学、それはあのナンバーワンヒーロー、オールマイトさんが担当する授業である。まさかあのオールマイトさんが教師をするだなんて思いもしなくて、初めて授業要項を見た時には驚きのあまりにしばらく動けなかったほどだ。誰もが憧れる彼からヒーローについてを学べるだなんて、本当に雄英は凄い。

「着替えたら順次、グラウンドβへ集まるんだ」
「はいっ!」

 今日の授業は早速戦闘訓練とのことで、みんな用意されたコスチュームに目を輝かせている。私もみんなに続いて指定された出席番号の収納からケースを取り出し、被覆控除の届出を思い出しながらはやる心臓を押さえてそっと開けてみた。

 私がコスチュームの出していた要望はふたつ。ひとつは弓道で着慣れている袴の要素を取り入れること。そしてふたつめは、弓を構え矢を放つ時に安定して扱えるような手袋。シンプルなこの二つの条件がどんなふうにデザインされているのだろうか。

「はかま……じゃない……?」

 開けてすぐに目に入ったのは特徴的な濃紺に白線が入った水兵の襟、可愛らしく結んである赤のリボン。周りのはしゃぐ声が耳を通り抜けていくなか、ぴたりと動きを止めた私を不審に思ったのか、響香が私の手元を覗き込んできた。私の要望通りなら、白、いや色はなんだって良いけど、着物の合わせ目部分のようなものが見えるはず。しかし、どう見てもこれは、……

「弓弦のコスチュームって、セーラー服風?」
「……だよね、やっぱりこれどう見てもセーラー服だよねえ!?」

 どこからどう見ても、可愛らしいデザインのセーラー服である。要望が間違ってたかな、もしかして手違い……?もしくは誰かの趣味……?脳内が混乱し、自分のミスだったのかなと気が遠くなっていく。まさかの現実に打ちひしがれていると、響香が私のコスチュームをがさりと取り出して広げ、私の目の前にずいっと押しつけた。

「きょうか……?」
「よく見なよ。これ、セーラー服と袴が混じってる」
「まじって、る……?」

 ほら、と差し出された勢いのままに受け取り、広げてしっかりとコスチュームを見てみた。たしかに収納されている状態ではセーラー服にしか見えない。けれど、広げた腕の部分は袖が小振袖ほど長く、スカートと思われる部分はよく見ると袴のような形だ。響香の言う通り、セーラー服と袴が混じったようなデザインになっている。

「よ、よかったあ……!」
「早とちりしすぎ」
「あいてっ」

 びっくりしたせいか、はたまた安心したせいか。朝からふにゃりと力が抜けてうずくまる。軽く小突かれた頭を押さえながら、響香を見上げると、よかったじゃんと頬を緩ませながら頭をわしゃりと撫でられた。これが響香の飴と鞭……。そうわかっていながらも撫でられるのは好きなので、甘んじてその対応を受ける。はっ、もしかして私の前世犬だったりする……?

「わあ、弓弦ちゃんのコスチュームかわいかあ!」
「珍しいデザインですが、和洋折衷のようでとても素敵ですわ」

 ぽやりと前世に思いを馳せていると、女子の面々から口々に褒められ、じわじわと嬉しさと照れが込み上げてくる。ちゃんと要望は通っていた、その事実だけでなんだかすごく嬉しい。今までの袴とはちょっと違うけれど、これが私の正装になるんだ。褒めてくれた言葉に感謝を述べ、みんなの衣装も順に見せてもらいながらわいわいと更衣室に向かう。さっきまでの落ち込みようが嘘みたいにワクワクが止まらなくて、早くこの衣装で訓練してみたいという思いがぐっと強まっていた。
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