不器用なひと


「…貴方は、何者なんですか」
「何者、と言われると返答に困りますが…強いて言うなら、この街の秩序になる者、ですかね」
「秩序、…言い換えればそれは支配者ですね。雲雀さんとはまた違ったように思えますけど」
「そうとも言えますね。君と同じように、自分に正直に生きているので」
「…人を、あんなふうに虐げてまでやりたいことがあるのですか」

 先程の光景がフラッシュバックして唇や手が僅かに震える。こんなこと言ったら、わたし無事じゃ済まないかも。そう思うとなんだかこの状況が分からなくなって、ほんの少しだけ混乱した頭に感謝した。
 目の前でひとつ瞬きをすると離れた距離を埋めるようにこちらに少しだけ近付き、濃紺の髪が一房さらりと顔にかかる。震える私の指先を絡め取り、愉しそうに微笑んだ。

「ええ、僕にはこの方法が最善です。君もいずれ分かるでしょう」
「…貴方は、不器用なひとなんですね」

 そう小さく呟くと、目の前の愉快そうな表情は一転し、僅かに眉を顰めた。ぽろりと溢れた言葉は自分でも予想外ではっと唇を結ぶ。でも何故だか、このひとは怖いけれど私には何もする気がないんだと思った。まだ二回しか会ってないのに、どうしてもこの人は自分を害するように思えないのだ。
 何か言おうとしたのか、形の良い薄い唇が開かれた瞬間、先ほど自分が入ってきた大きな扉が音を立てて再び開いていった。ぱっと瞬時に目線が逸らされ、手の力が微かに緩む。振り返ると薄暗い中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「名前ちゃん!?」
「…もしかして、沢田くん…?」

 呼ばれた名前に驚きながらもじっとその影を見つめる。開かれた扉の近く、ぼんやりと見えたのはツンツンとした髪のシルエット。こちらに近く付いて来るにつれてはっきりと見えてきた、見覚えのありすぎる姿に驚きながらもじっと見つめる。そこには目をまあるく見開いてこちらを見つめる沢田くんとビアンキさん、そしてリボーンくんの姿があった。

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