生憎の雨、昨日星に快晴を祈ったけれどダメだったみたいだ。それにしても新人さんの初出勤が雨の上に出動要請なんて。

「初日から大変ですねえ」
「仕方ない、洗礼と思ってもらうしかないだろう」
「…宜野座さん眉間にしわ、よってますよ。急なトラブルとはいえ、新人さんには良い印象持って欲しいじゃないですか」
「くだらん、さっさと準備しろ春川」
「はあい」

昨日の報告書に書類ミスがあったようで、残業していた宜野座さんはちょっと苛立っているようだ。なるほど、縢くんが昨日の夜匿って!と星見をしていた私と狡噛さんがいた休憩室にに突撃してきたわけだ。…宜野座さんには後でコーヒーでも差し入れよう。最近家の近くに出来た喫茶店のコーヒーはすっきりとした後味でオススメだ、気に入ってくれるかな。

「5分後には執行官の護送車がくる。春川は先に内部のマップの準備を」
「りょーかいです。志恩さーん聞こえてました?データお願いします」
「聞こえてるわよ、対象のデータも送っとくわね」
「ありがとうございます」

内部の解析データと対象のデータを受け取って情報整理。宜野座さんとデータを共有して確認していると水たまりを踏みながら駆けてくる音が人混みから聞こえてきた。

「あの、監視官の宜野座さんと春川さんでしょうか!」
「お、新入りさんかな?」
「そうだ、配属早々に事件とは災難だったな」
「本日付けで刑事課に所属になりました、常守朱です。どうぞよろしくお願いしま」
「悪いが、刑事課の人手不足は深刻でね。新米扱いはしていられない」
「宜野座さん、顔!というか人の話遮るのはダメでしょう。あ、私が春川です。春川陽菜、よろしくね常守さん」
「は、はい!よろしくお願いします…!」

良い印象を!って話してたのに初っ端から圧をかけるような話し方をした宜野座さんをフォローするため出来るだけ優しい顔で挨拶をする。常守朱さん、ひとつ年下の後輩。とても可愛らしい子がきて嬉しい限りだ。雨の中走ってきたのか頭や肩が濡れてしまっている、風邪をひいたら大変。カバンからタオルを取り出して渡したところで宜野座さんからの説明が始まった。お礼を言う常守さんはなんだか妹ができたみたいで可愛い。…私の方が背は低いけど。

「対象は大倉信生、街頭スキャナーで色相チェックに引っかかりセキュリティードローンがセラピーを要求したが拒絶して逃亡。記録したサイコパスはフォレストグリーン、高い攻撃性と強迫観念が予想される。」
「そんなに色相が濁るまで治療を受けなかったなんて…」
「不適合薬物に手を出した可能性もある、か」
「ああ、なんにせよシビュラ判定を待つまでもない潜在犯だ」

手元の通信機で対象の情報を共有する。それと同時にマップも展開し、どのようなルートで探すかを考え出した。手分けして探さないとこのエリアは迷路みたいに道が多い。新人向けの仕事とは言えないよなあ、ほんとに。

「厄介なのは大倉が逃げ込んだこのブロックだ」
「廃棄区画で中継機がない。ドローンも入れないですね」
「それと逃亡の途中で大倉は通行人を拉致して人質にしているらしい」
「人質が…?」
「目撃者の証言によると若い女性だったらしいです。身元の確認はまだ取れてません」

廃棄区画は夜であることを踏まえても薄暗く、けれども辺りに人がちらほらと点在している。シビュラの目が届かないここには訳ありの人が多いと聞く。目立つ行動や発言は慎まなければならないだろう。

「ここは浮浪者の巣窟だ、覚悟しておけ。春川」
「はーい。じゃ、常守さん突入前にこれ着てくださいね」

監視官が着るジャケットを渡すと元気の良い返事。うーん確実に良い子だ、嬉しいな。そして常守さんの返事と同時に現場に執行官の乗車している護送車が入ってきた。…常守さんは、執行官にどのような対応を、考え方をする人だろうか。

「これから会う連中は同じ人間だと思うな。…奴らは猟犬、獣を狩るための獣。それが執行官、君が預かる部下たちだ」

夜をくるむ温度
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