昔から星を眺める事が好きだった。季節によって変化していく星空は毎日見ても飽きない。望遠鏡を片手にベランダから覗く小さな世界は、けして触れられない遠くて儚いものだけれど不思議と落ち着く。
「陽菜、さすがに冷えるぞ。そろそろ中に戻ったらどうだ」
「うん、…でもあと少しだけ」
「…仕方ないな」
不意に暖かくなった肩には私には随分と大きい上着。手すりに寄りかかり隣でタバコを吸う姿は、端正な容姿と相まって相変わらず様になるなあと思った。
「ありがとう狡噛さん」
当然だというように微笑み、頭を撫でてくる彼とは無言のままでも一緒にいる時間は全然辛くない、むしろ心地が良いと感じる。包容力のある大人はすごいや。
明日から、新しい監視官が一係に配属される。私の初めての後輩。その不安と期待を胸に、星を眺めて心を落ち着かせようとしていたことに気づかれていたのだろう、いつも見守ってくれる優しい人だ。
「明日、晴れると良いね」
「ああ、そうだな」
ぽつりぽつりと、ゆっくりとしたテンポで話す。そろそろ戻らないと宜野座さんから怒られちゃいそうだ。見つめていたゆらゆらと漂うタバコの煙は、やがて煌く都会の夜景を通り過ぎ、空へと溶けていった。
星よりも正しいひと
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