かゆい。夜中にふと喉が渇いてベットから起き上がると首元に痒みを感じた。虫にでも刺されたようだ。寝ているであろう両親をおこさないよう洗面台に向かい明かりをつけて鏡を見てみると、髪を下ろしているとギリギリ隠れる位置を蚊に刺されているのが見えた。

「うわ、思ったよりも赤い」

寝ている間に爪でかいてしまったのか少し赤みが強い気がする。虫刺され用の痒み止めあったかな。明日も学校だ、早く見つけて塗ってから寝たい。…しかし、探し始めて早数十分。自分の部屋にあるはずなのになかなか見つからない。結局見つかったのはさらに1時間後で、自分なにやってるんだろう…と明るくなり始めた空を見ながらぼんやりと思った。

「おはよう名前ちゃん」
「おはよーツナ、山本も」
「はよー、なんだか眠そうなのな」
「ちょっと色々あって…2人も眠そうだね」
「いやー、昨日2人でゲーム三昧しちまってな」
「ついやり過ぎて、気づいたら深夜になっちゃってたんだ」
「あー少し気持ちわかる」

結局あの後あまり寝付けず、眠たい目を擦りながら登校しているとツナと山本に遭遇した。ふたりとも寝不足だったらしくちょっとシンパシーを感じる。私の話をしたら山本に爆笑されて、ツナには苦笑いされたけど。

「それにしても薬探して1時間超えは熱中しすぎでしょ…」
「ツナ達も時間見てなかったなら似たようなもんじゃん!」
「あはは!やっぱ名前って面白いのな!」

くそう、バカにしやがって山本…!と心の中で思っていると前方に見慣れた銀髪が見えた。驚かせてやろう!と閃き、荷物を山本に投げ、持ってるように言ってから油断している背中に向けて走って飛びつく

「おっはよ獄寺!」
「うおっ!?おま、急に何すんだ名前!」
「見つけたからつい!」
「つい!じゃねーよ!あーもう重い離れろ!」
「やだー暑いからこのまま連れてってー」
「俺も暑いから離れろ!」

ちょっとぐらい照れてくれたっていいのに。少し名残惜しいけど離れてから乱れた服を整える。朝から元気だなおめーは、と獄寺がちょっと不機嫌そうな顔でため息混じりに呟いた。

「獄寺も寝不足?」
「あ?別にそーでもねーよ」
「ならなんでそんな目つき悪いんだ…」
「生まれつきだ!」
「知ってた!」
「じゃあ聞くな!」

こんな、何気ないやり取りが朝からできるのが楽しい。思わず笑みがこぼれる。夏休み中に何度かある登校日も、初日から皆と会えたから少しは行く意味あるかなーなんて思ったり。

「…おい名前、それどーしたんだよ」
「え?どれ?」
「…それ、誰だよ。付けたやつ」
「…つけた?」
「しらばっくれんなよ。山本?10代目?それとも雲雀?」
「ちょっと、獄寺、顔怖いって」
「いいから答えろよ」

何故だか知らないけど、獄寺が急に怒っているような、それでいて辛そうな顔をしている。いつもよりも鋭く細められた目に、はっきりと私の顔が映る。それくらい距離も近い。視界の端の方で、ツナと山本が焦ってる顔が見えた。

「首元、誰のだ」
「くび…?あ…えっと、もしかして、虫刺され…のこと?」
「…………むしさされ?」
「うん、虫刺され」
「むし?」
「そう、虫」
「…………っま、紛らわしいんだよバカ名前!」
「ちょっとバカって何!?」
「うるせえ!!!」

もう一度バーーカ!!と言い残して獄寺は文字通り風の如く走り去っていった。バカって言った方がバカーーー!!
そう言い返した私は、獄寺が先程怒りと悲しみの混ざったような表情をした理由が虫刺されだと思い返して、なぜアイツが「紛らわしい」と言ったのかという理由になんとなく気が付いた。何人かの名前を挙げたのも、もしかして

「キスマークと勘違いしたんだろーな、アイツ」
「うぉっ山本!!!?」
「ははっ、驚きすぎなのな」
「いや後ろにいた人が横にいたらビビるって。ていうかキスマークって…バカなのは獄寺じゃん。こちとらそんなのしてくる相手もいないっつーの」
「まあまあ、アイツなりに心配してんだよきっと」

心配…ああ、そうか。結構無防備だ、とか、もっと自覚持てとか、そうやって心配してくれる獄寺だから、誰かに変なことされてないかって心配してくれたのかな。
だとしてもなんで身近な人を例にあげるんだろう。アイツらや雲雀さんがそんなことする訳ないのに。…でもあんな顔をした理由が、少しでもヤキモチを妬いてくれたからだったら良かったのに。

「ていうかツナは?」
「獄寺追いかけて先に行ったぞ?」
「やば、時間ないじゃん!急げ山本!」

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