日が沈んできて、人数が少なくなってきた。
俺は優に貰った唯の携帯を握り締め、唯の墓石の前に腰を下ろした。
ただ、ボーッと墓石に刻まれた文字を見る。
「本当に、もういねぇんだな…」
視線を地面にずらして、目を閉じる。
数分して目を開け、視界に入った携帯を開いた。
待受も着信履歴も何もかもがあの時のままで、そこだけ時間が止まっているようだった。
受信メールを見てみると、ほとんどが俺とさつきで埋められていた。
今日は昼食にカレーを食べた。
暇過ぎて暇。
赤点取った。
など何気ない文が綴られていた。
懐かしいなと思いながら、次に送信メールを見てみると何通もの未送信メールがあった。
全て宛先なしのメールに不思議に思いつつ、一つ一つ未送信メールに目を通していく。
俺はそれを見て言葉を失った。
自然と持っていた携帯に力が入る。
寂しいよ。
怖いよ。
死にたくない。
助けて。
未送信メールには唯の本音が綴られていた。
俺達には決して弱音を吐かなかった唯。
強かったからじゃない。
全部こうやって自分で溜め込んでいたからだ。
なぜ気付かなかったのか、どうして気づいてやれなかったのか。
そんな後悔が襲った。
メールを読むのを止め、他のフォルダを見ていく。
写真フォルダは色んな空の写真で埋めつくされていた。
「…どんだけ空が好きなんだよ」
最後に、録音フォルダを開くと何件か残っていた。
全てに名前が振り分けられていて、俺は自身の名前が示されているのを開き、携帯を耳元に持っていった。
『大ちゃん、お元気ですか?』
しばらくすると、唯の声が聞こえてきた。
それだけで今まで耐えていた涙が溢れ出て、頬に伝って地面へと落ちた。
『部活、頑張ってる?面倒くさいからってサボっちゃダメだよ。さっちゃんが顔真っ赤にして怒ってたよ?勉強は頑張ってる?この前赤点取ったっていうの聞いてびっくりしちゃった。部活も勉強も頑張らないと!』
他愛ない話がしばらく続いた。
溢れ出る涙をそのままに携帯から聞こえる唯の声に耳を澄ませる。
目を閉じれば、まだ唯は生きていて、どこか遠くから電話を掛けている。
そんな感覚に陥った。
『大ちゃん…私ね、幸せだったよ。さっちゃんと大ちゃんが幼馴染で幸せだった。あの時、一緒に遊びに行こうって言われてとても嬉しかった。これを聞いてる頃には私はもうこの世に居ないだろうけど…』
唯の声が途切れた。
もう終わったのかと思い、ディスプレイを見てみるが時間はまだ刻まれていた。
もう一度、耳元に携帯を持っていけば唯の泣いている声が聞こえた。
『大ちゃん、好きだよ。大好き。こんな私を、好きになってくれてありがとう。大ちゃんにね、好きって言われたとき生きたいって思った。…ずっと側に居るって約束、守れなくてゴメンね』
「約束ぐらい守れっての」
『…大ちゃん、たまにでいいの。一瞬だけでもいいから…私がこの世に生きていた事を、思い出してください。私が、存在していたことを…忘れないでっ』
「…忘れるかよ。俺も、さつきも。おじさんもおばさんも、誰も忘れねーよ」
『最後に、私は…青峰大輝くんの事が、大好きです』
プツリと音がして唯の声が聞こえなくなった。
ディスプレイを見れば、10:00を表示したまま止まっていた。
携帯を閉じて、ポケットに突っ込む。
涙が止まらない。
今まで堪えていた涙が、どれだけ拭っても頬を伝って零れ落ちる。
既に視界は霞んでいて、この世の全ての物が歪んで見える。
「バッカじゃねぇーの、…誰もお前を忘れたことなんてないっつーの。言いたいことだけ言って、勝手に消えやがって。俺だって、お前のこと」
俺の言葉は誰に聞こえることなく蝉の忙しくなく声にかき消された。
120820