涙が止まった後、家へと戻った。

出迎えた母さんは俺の赤く腫れた目を見て何も言うことなく俺を抱きしめた。

それにまた涙が出た。


「ご飯、温めて食べなさいよ」

「おー」


俺はご飯を食べることなく、自室に篭った。

泣きつかれてか、ベッドに寝転がると睡魔に襲われた。

抗うことなく、身を委ねれば俺は意識を手放した。



目を開けると、そこは一面花畑。

色んな花があって、風が吹くたびに揺れて独特な匂いが鼻を掠める。


「…夢か」


夢の中なのにこんなにも意識がハッキリしているなんて可笑しな話だ。

ボーッとして、辺りを見渡す。

目を凝らして、遠くの方を見れば白いワンピースに身を包んだ唯が微笑みながら俺を見ていた。

俺は走った。

転びそうになりながらも、必死に唯の元へと。


「…唯」

「久しぶり、大ちゃん」


ふわりと微笑む唯。

ぎゅっと抱きしめると、唯は遠慮がちに俺の背中に手を回した。


「ずっと、会いたかった」

「…私も」

「勝手なことばっか言って、勝手に居なくなりやがって…」

「うん、ゴメンね」


少しだけ体を放し、唯を見ると唯は静かに泣いていた。

唯の目から溢れる涙を親指の腹で拭ってやる。


「泣き虫」

「大ちゃんだって、一杯泣いてたでしょ?」

「るせぇ」


唯の後ろ首に手を持っていき、引き寄せた。

触れるだけのキスをして、額を互いにくっつけると唯は嬉しそうに微笑んでいた。


「大ちゃん、優のこと…よろしくね」

「任せとけ、唯より可愛がってやる」

「何それー」


むくれた唯ともう一度キスをすれば、俺は夢から目が覚めた。

チュンチュンと鳥が囀ってる声が聞こえて、いつの間にか朝を迎えていたことに気がつく。


「あ、青峰君起きた」

「…何でいるんだよ」

「様子見に来たの。何だか凄い嬉しそうな顔してるけど何かあったの?」

「…エロい夢見てた」

「大ちゃんサイテー」


俺をジト目で見てくるさつきに枕元に置いてあった唯の携帯を放り投げた。


「これ、唯ちゃんの携帯?」

「録音フォルダの聞いとけ」

「え?って、青峰くんどこ行くの!?」

「優のとこ」


優って誰!?と言うさつきの声を聞きながら、俺は家を出た。

すぐ近くにある唯の家。

何年ぶりかに唯の家の敷居を跨げば、おばさんが嬉しそうな顔をして俺を迎えてくれた。


「優は?」

「優なら、あそこ」


そう言っておばさんが指差した所は、庭にある大きな木。

その木に唯はしがみついて、蝉を捕ろうと頑張っていた。


「…優」

「あっ、だいちゃん!」


大きな声を出したためか、優の捕ろうとしていた蝉は逃げていった。


「あーあ…」

「蝉なんかやめてザリガニ釣りに行こうぜ」

「ザニガニ!」

「ザリガニな」

「ザニガニ!」


木から優を降ろして近くの川に遊びに行こうとしたら、さつきが泣きながら走ってきた。

優を見て号泣し出したさつきの頭を優が撫で、慰める。

しばらくして泣き止んださつきと俺と優の三人で川に遊びに行くことになった。




忘れない。

どんなに時間が経ったって、絶対に。





120820



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