再集結

「イリス! ヴィンセント!」

「ナナキ!」

何度も乗ったはずの飛空艇が、今はとても懐かしく思えた。コックピットはこんなにも広く、エンジン音はこんなにもうるさかっただろうかと、懐かしいものを見るようにして、辺りを見回していた。

「よお、二人とも。イリス、身体はもう大丈夫なのか」

「バレットさん! ありがとうございます。今は元気です!」

最後の決戦を前にして、一度飛空艇を降りるようにクラウドが言ったと、そう彼から聞かされていた。大切なものを見付け、確認し、その上で飛空艇に戻るかを決めるようにも言われたと、そうも聞かされていた。

どれだけの仲間が再度この場に集まるのかわからないとクラウドは悲観していたらしかったが、自分にはその悲観は杞憂に終わる気がしていた。

現に目の前には、レッド]Vとバレットが、自分達よりも先に飛空艇に戻って来ている。

「イリス、てめえ、心配させやがって!」

「わ、ちょっと、シドさん、」

操縦席の奥に居たのか、声を聞きつけ駆け寄ってきたシドは、腕で羽交い絞めにするような仕草をしながらも、どこか嬉しそうに笑っていた。

「シド、その辺にしておけ」

「な〜んだ、ヴィンセントも戻ってきちまったのか」

シドの投げやりな言葉も、粗暴な態度も、今ならば友情の裏返しなのだとわかる。素直になれない、彼なりの「おかえり」の言葉なのだと、皆がわかっていた。

「いっつも冷めてたからよお、てっきり戻って来ないのかと思ってたぜ」

「ふん、悪かったな」

「ヴィンセントさんは冷めてなんかないですよ。ね?」

昨夜のアイシクルロッジでのやりとりを思い返しながら、シドに抗議をしたものの、ヴィンセントがやめろと目で訴えているのが見えた。皆の前で暴露されることほど、彼にとって恥ずかしいことはないのだろう。

「なんかワケアリってカンジじゃん! 何かあっただろ絶対!!」

「えっ!?」

何故か天井付近から聞こえてきた声に、思わず上を見上げた。身軽な少女はひょいと天井から飛び降りてくるなり、こちらに近付いてにやにやと笑みを浮かべている。

「ユフィ! ユフィ、会いたかったよ」

「え、ちょ……そんな素直に言われたらなんも言えなくなるじゃんか〜!」

最後に見た彼女は、宝条の元へと駆け出してゆく後ろ姿だった。その後なんの連絡も取れないままでいたことが寂しかったのだと、彼女を目の前にして気持ちが込み上げてくる。

「アタシだって会いたかったよ〜!! うえーーーん」

「ふふ、ユフィなら戻って来るって信じてたよ。思ったより早かったみたいだけど」

「うう〜……『最後の最後においしいとこだけ持っていかれるなんて嫌だから、仕方なく戻ってきてやったよ』って、来る途中に何回も言い訳の練習してたのにさーーー! イリス、もうヴィンセントなんかやめてユフィちゃんのとこ来なよーーー!」

「男も女も関係ねえ、いちゃつく奴は全員降りろ」

こちらの身体を抱き締めながらぶんぶんと揺さぶるユフィに、こちらまで船酔いをしてしまいそうになる。そんな自分たちを横目に、シドはまたもや茶々を入れている上に、いつもならば興味のない様子で見向きもしなかったバレットですら、こちらの様子を見て口元に笑みを浮かべている。

「なんか、耳がキーンってする」

「あ? 何にも聞こえないぜ?」

耳をピンと立てて辺りを伺うレッド]Vに倣って皆も耳を澄ませるが、おかしな音は何も聞こえてこない。それでも尚、警戒心を解かないレッド]Vに、皆も辺りを警戒していた。

「すんません、多分それボクですわ」

「帰ってきたみてえだな、神羅の部長さんがよ」

のっしのっしとデブモーグリの人形に乗って現れたケット・シーは、頭を掻く仕草をしながら皆に近付いてきた。

「ボクも本体で来よう思たんですけど、色々やらなアカンことあって……このぬいぐるみの身体ですんません。ほんで一応報告ですけど、ミッドガルの人達には避難してもろてます」

いつも通りの満面の笑みを見せてはいるものの、その本体もとい神羅カンパニーのリーブは、ミッドガルで必死に避難活動をしてくれているらしかった。

宝条が魔晄炉から魔晄キャノンへと配管したことや、ウェポンの襲撃を受けて壊滅状態にあるミッドガルは、確かに現在危険な状況下にあるはずだった。いつでもミッドガルの人々のことを気にかけ、最善の措置を講じてくれている彼に、言葉にこそしないものの、バレットをはじめとした皆が感謝をしていた。



「っていうかさ、降りろって言った本人のクラウドが居ないんですケド?」

「あ、確かに……それにティファさんも」

続々と仲間達が集まりつつあったが、リーダーのクラウドと、そしてティファの二人の姿が見えない。聞けば二人は、最後まで飛空艇を降りることなく、皆を見送っていたらしかった。

シドの話によれば、帰る場所などないのだと言って飛空艇に残っていたらしいが、飛空艇内に居る様子もない。

「あー……っと、いや、」

「だって、ねえ、」

何故か顔を見合わせているバレット、シド、レッド]Vの三人だったが、三人はコックピットの窓から下に視線を移し、乾いた笑みを浮かべている。

「ま、もうちょいしたら帰って来んだろ」

悠長に煙草をふかしながらそう言ったシドの言葉に、何のことかと、自分もその視線の先へと目を向けた。

日が昇りつつある中、飛空艇の停泊しているすぐ下の丘で、クラウドとティファの二人が寄り添うようにして座っているのが見えた。

「あっ……そういうことだったんですね」

「これは見なかったことにしよ」

「お前らまだマシな方だぜ」

肩を寄せ合い、太陽を眺めてる二人の姿を見ているのは、どこかこちらまで恥ずかしくなってしまう気がしてきていた。しかし、どうやら飛空艇に真っ先に戻ってきたらしいバレット達は、意味深な笑みを浮かべながら目配せをしている。

「"マシな方"……?」

「え、ナニナニ、どゆこと?」

「おっと、嬢ちゃん達にはまだ早えとさ」

何かを察したらしいヴィンセントがすかさずシドを睨み付け、シドも口を閉ざしてしまった。

一体何なのだと騒ぎ立てるユフィを宥めながら、クラウド達が帰って来るのを皆で待っていた。何ということはない、いつも通りの眺めが、飛空艇内に広がっていた。



「あれっ!?」

「まさか……」

コックピット内では、暫く他愛のない話が続いていた。その後の体調は大丈夫なのかと自分を心配してくれる皆に、もう熱も下がったと話をしたり、アイシクルロッジに居たのだという話をしていた。

その間の皆も、それぞれの故郷に戻り、大切な人達に会ってきたのだと、皆の"星を救う理由"を共有していた。

そんな時に、通路の方から声が聞こえてきた。やっとあの二人が戻ってきたのだと思うと、何故か、どんな顔をして迎えたらよいのかわからない気がしてしまう。

「みんな! いつの間に戻って来てたの!?」

「いやあ……まあ、結構前に戻って来てたな」

「どうして声掛けてくれなかったの!?」

顔を真っ赤にしながら問い掛けるティファとは対照的に、クラウドは頭を抱えるようにして「最悪だ」と呟いている。

「邪魔しちゃあ、後でな〜に言われっかわかんねえもんなあ」

「……見てたの?」

ますます顔を赤らめるティファに、皆質問から逃げるようにしてそっぽを向いている。両手で顔を覆うようにして膝からがっくりと崩れ落ちるティファに、クラウドも大きく溜息をついていた。

「大丈夫だよクラウド、全部は見てないから!」

「ユフィ!」

余計なことを口走った少女をレッド]Vが止めに入ったものの、時すでに遅く、二人をより窮地に追い込んでしまったらしかった。

「……最悪だ。最悪だけど、」

クラウドはまた一つ、大きく溜息をついて、再度そう言った。しかし、コックピットに集まった全員の顔を見ると、徐々にその表情にいつもの力強さが戻って来てもいるようだった。

「みんな、戻ってくれてありがとう」

彼の言う通り、皆がそれぞれの大切なものを見付け、再確認できた今、心に迷いを生じている者は誰一人としていないようだった。

今度こそ、セフィロスとの戦いに終止符を打つために、エアリスの想いを継ぎ、ホーリーを発動させるために、そしてこの星をメテオから救うために。皆の想いはより強固なものとなっているようだった。

皆の決意を乗せて、飛空艇は北の大空洞へと発進していった。


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