それは信頼の証

ドンっと、鈍い音を立てて地面に降り立った彼等は、まるでパラシュートから投げ出されたかのように道路に転がっていた。

「大丈夫……!?」

放っておけと言われても、やはり友人達を見捨てて先には進めない。舗装された道路脇で暴れている彼等に声を掛けるも、聞こえてくるのは不平と罵声ばかりだった。

「クッソ〜、やっぱ痛いじゃんか!」

「でもほら、無事に着地できたやないですか」

「これのどこが無事なんだよう!」

未だパラシュートに絡まったままの彼等は、ああだこうだと言い合いをしていた。着地は大成功とは言えないものの、大きな怪我もなく合流できたことは良いことだと、イリスは彼等に駆け寄った。

「助けてイリス〜」

「……!」

最初にひょいと飛び出して来たケット・シーは、膝を払う仕草をしてにんまりと笑顔を向けていた。残りの二人はどうなっているのかとパラシュートを払いのければ、レッド]Vの背中にしがみついた格好のまま、自分達と同じくロープで括られているユフィの姿が目に飛び込んでくる。

「この体勢で降りてきたの!?」

「だって、ユフィちゃんしかリュック背負えないし、イリスとヴィンセントがロープ使ってたからウチらもそうしようって……うえ〜ん、いいからはやく縄解いてよ〜!」

「ユフィ、暴れないで、オイラ苦し――ぐえっ」

一人さっさとクラウド達に合流しているケット・シーを恨めしそうに見つめる二人の姿はあまりに滑稽で、それでもこうして無事に着地できたことが可笑しく思えてきてしまう。

「コルネオさんに捕まったときにも『縄抜けの練習しとけばよかった』って言ってたのにね、ふふ」

「笑ってないで助けてってば〜!!」

苦しそうに喘ぐレッド]Vの上でじたばたと暴れているユフィを見ているのもある意味平和な光景ではあったが、今は急いで神羅カンパニーの本社ビルへと向かわなければならないと、笑いを堪えて二人に向き直る。

「クラウドさんの剣でロープ切ってもらおう。呼んでくるから待ってて」

「オイラが潰れないうちに早くね……」



クラウドを含めた皆は少し離れた先で相談をしており、自分達とクラウド達との中間地点辺りには、ヴィンセントが相変わらず腕を組んだまま佇んでいた。ユフィを放っておけとは言ったものの、自分を案じて待っていてくれているのだろうかと、そんなことを思うとまた笑みが零れそうになる。

「あの、ユフィとナナキがロープでぐるぐる巻きになってしまってて」

「先の私達のように、か?」

それを聞いた彼は、自虐的に少し笑いながら、呆れたように後方を見ていた。ユフィを背に乗せたまま、うんざりだというようにとぼとぼと歩いてくるレッド]Vの姿が見える。

「もっと悲惨です、ね」

「……クラウド」

彼もまた、あの滑稽な姿を見て可笑しさを覚えたのか、やや口角を上げたのがわかった。まさかこのミッドガルの地で、二人で他愛のないことで笑う日が来ようとは、想像もしていなかった。

ヴィンセントは再度クラウドを呼び、同じように縄を解くよう頼もうと声を上げた。珍しく大きな声を出した彼に、前方の皆は足を止めて、後方の悲惨な状況を見て苦笑している。

「一体どうやったらあんな風になるんだ?」

「ふふ、ほんとね。早く助けてあげて、クラウド」

やれやれとわかりやすく肩をすくめながら、クラウドはユフィ達の元へと向かっていった。これでやっと解放されると、レッド]Vが安堵の溜息を溢したところへ、地鳴りのような、揺れを伴う大きな音が聞こえてきた。

「なんだ!?」

縄を切るためにと抜いた剣をそのまま構えて、クラウドは周囲を慎重に見渡している。ヴィンセントは咄嗟にイリスの隣に立ち、マントで彼女の姿を隠すようにして、同じく周囲を警戒していた。

「え、なになに、なんの音!? ってか縄! はやく!」

「少し黙っててくれ」

一体何が起こっているのか、それすらもわからず皆が警戒を始めているというのに、ユフィだけは一人、レッド]Vの背に括り付けられて身動きが取れずにいた。

「何か来るな……」

「ウソ! マジ!? この状況で!?」

前方でこちらを眺めていたティファ達と、ユフィに合流したイリス達との間の道路脇から、突如巨大な機械が姿を現した。

「……最悪だ」

クラウドの言葉通り、仲間は巨大兵器によって二分され、本社ビルへと急ぐ道を閉ざされ、その上仲間の二人は縄で繋がれたまま、まともに戦闘できないという最悪の状況が生まれていた。



「ガハハハハハ! 来たな来たな!」

「キャハハハハ! やっぱり来たよ!」

巨大な機械がのっしのっしと皆に近付いてきたかと思えば、その最上部の天蓋が開き、聞き覚えのある耳障りな笑い声が聞こえてきた。

「よくも今までコケにしてくれたな!」

髭をたくわえたその口で、相変わらず大きな笑い声と共に憎しみの言葉を投げられる。もう一人の彼女の方は、ティファを見付けるなり形相を変え、目を吊り上げて何かを構えている。

「よくも今まで、私の可愛い兵器達をたっくさん壊してくれたわねえ! それにそこのアンタ、よくも私にビンタしてくれたものだわ!」

神羅カンパニーがその機能を失っても尚、二人の攻撃はこちらへ向けられているようだった。それは最早、社命というよりも私怨に近いのかもしれない。

「アカン、ブラウド・クラッドや!」

「なんだそりゃ、あの機械のことかあ?」

「せや、対ウェポン用に造らせたっちゅう、どえらい兵器や!」

兵器を挟んだ向こう側で、ケット・シーが慌てふためいているのが聞こえてきた。すんなりとミッドガルへ降下できたかと思えば、やはりというべきか、行く手を阻まれてしまうことに皆が苛立ちを覚えていた。

「くっ……こんなところで足止めか」

最早戦闘もやむ無しと、クラウドがその大剣を振り上げた時、向こう側に居る仲間達が身振り手振りで何かを伝えようとしているのが見えた。

「先に行ってろ!!」

バレットの大きすぎる声に、やっと皆の意図が伝わった。確かに目の前の兵器はティファ達の方向を向いており、兵器を挟んだこちら側の方が本社ビルに近い。応戦すべきか、先にビルへ向かって宝条を止めるべきか、クラウドは一瞬ひどく悩み、そしてその剣を柄に納めた。

「行こう」

「でも、ティファさんたちだけじゃ……」

「バレットもシドもいる。それにケット・シーはあの兵器に詳しそうだ。ここは任せて宝条の所へ急ぐぞ」

果たしてその判断が正しいのか、考える余裕もなければ時間もなかった。確かに宝条がセフィロスに魔晄を送ってしまえば、この星そのものが危険に晒される。かといって、目の前で巨大兵器を相手に戦闘を開始しようとしている仲間を放って、先に進むというのも気が引けてしまう。何より皆のことが心配でならない。

「そうだな」

「ヴィンセントさんまで!」

「ティファ達を信用しろ」

彼自身もきっと、迷いがなかった訳ではない。それでも決断しなければならない。そんな表情をしながら、彼はこちらの手を引き、本社ビルへ向かって走り始めた。隣にはクラウドが、そしてやや後方にはユフィを背負ったままのレッド]Vが走っている。

「二手に別れようったってそうはいかないわよ!」

すかさずスカーレットのきんきんとした甲高い声が聞こえてきた。兵器のアーム部分がこちら側に向けられ、大きく振りかぶっているのが見える。

「させるかよ!」

どうやら戦闘を任せたのは正解だったらしい。こちらを追って来ようとする兵器をシドが阻止し、バレットとティファもケット・シーの指示を仰ぎながら猛攻撃を開始している。

「はやく行けお前ら! 星の命がかかってんだろ!」

「……ああ!」

いつも以上に熱くなっているシドの笑みに、皆の意思は固まった。この場は彼等に任せる。彼等を信じるからこそ任せて、そして託された使命を全うするのだと、本社ビルへと迷いなく駆け出した。


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