報酬は言葉で

5人は仲間に巨大兵器との戦闘を託し、神羅カンパニー本社ビルへと駆けていた。彼等にその場を任せ、託したのと同時に、彼等もまた、自分達に星の命運を託してくれているのだと、そんな想いが皆の足を動かしていた。

「ねえ、そろそろ追って来ないんじゃないかな、クラウド」

「そういえばそうだったな。悪い」

随分と走り続け、本社ビルがもうすぐ目の前というときになって、レッド]Vの悲痛な声に足を止めた。ここまでずっと暴れるユフィを背負って走ってきた彼の体力は、大分消耗されているようだった。

巨大兵器の出現に、仲間とのやり取り、そしてビルへと急ぐ気持ちからか、クラウドはユフィのことなどすっかり忘れていたかのようだった。レッド]Vに申し訳ない顔を向けながら剣を抜き、二人を縛っていた縄を切った。

暴れる少女一人を背負いながらも、クラウドに引けを取らずに走り続けてきた彼を称賛するように、イリスはレッド]Vの頭をそっと撫でた。

「あ〜、やっと解放された〜!」

「それってオイラが言うセリフじゃない?」

口では少々むっとした声を上げる彼だったが、褒められ、撫でられ、思わず尻尾を振ってしまっているのがいじらしいと、イリスはより一層彼を撫でた。いつもと変わらない、あたたかな毛並みが指を攫った。



「あ! やっぱり来た! 先輩、やっぱり来ましたよ!」

本社ビルを目前にして、またもや聞き覚えのある声がした。ビルの正面ゲートからほど近いところで、例の金髪のタークスが、こちらを指さしながら声を上げている。

「またタークスか」

クラウドが剣を構え、きっとこの後に現れるであろうもう二人にも備えている。ヴィンセントも銃に手を掛け、イリスを庇う。

「よぉ、久しぶりだな、と」

予想していた通り、彼女の後方からは、例の赤髪の彼と、スキンヘッドの彼がゆっくりと歩いてきた。いつも通りのスーツを着た二人組は、いつも通り感情の読めない表情をしている。

しかしいつもと違うのは、武器を手にしているでもなく、攻撃をしてくるでもなかった。そもそも彼等二人からは敵意が感じられない。

「覚悟しなさい! 私達に与えられた命令は、あなた達を発見次第殺すこと!」

二人とは対照的に、イリーナだけは銃をこちらに向けて宣戦布告をしている。あくまでも任務を遂行しようと、徐々にこちらに近付いてきている。

しかし、援護がないことに気が付いたのか、後方のレノとルードを見やり、そして絶望したような、泣き出しそうな顔をした。彼女だけがこちらに立ち向かっていたが、それももう必要ないのだと、そんなことを悟ったのかもしれない。

「イリーナ、」

「せ、先輩! 確かに会社はもうボロボロですけど、でも、命令は命令ですよ!」

「……」

どうやらこのタークス三人の中でも意見が割れているらしい。これまで幾度となく戦闘を交わしてきたあの二人が、後輩の彼女を諭すように首を横に振っている。

「……俺達を殺すんじゃなかったのか?」

彼等に追い打ちをかけるようにしてそう言ったクラウド自身も、先程までのような戦闘体勢ではなかった。未だ剣を納めてはいないものの、二人の発している雰囲気を感じ取ったようだった。

「神羅も、もうおしまいだ。社長もいねえ、こんな事態になっちまっちゃな、と」

「先輩……」

「クラウド。仕事は……仕事は終わりだぞ、と」

それはきっと、単なる戦闘の放棄ではなかった。これまで見てきた彼等の"仕事"も、その意地も、彼等の慕うルーファウスが不在となった今、仕事を遂行する目的を失ってしまっているかのようにも見えた。

仕事は終わりだと、そう言ったレノの表情はいつも通りの澄ました顔だったが、どこか哀愁を漂わせてもいるようだった。そして、はやく行けと言わんばかりに、塞いでいた本社ビルの正面ゲートへの道を開ける。

「……ああ、わかった」

敵対しながらも、互いに協力し合うこともあった。それを友情と呼ぶことはできなくとも、単なる"敵"とはどこか違う、腐れ縁のようなものを感じていたのかもしれない。

道を開けた彼等の横をすり抜けて、皆は正面ゲートへと歩き始めた。

「じゃあな、と。お互い生きてたら……」

「……お前もな」

「命あっての物種だぜ、と」

クラウドとレノの会話は決して長いものではなく、淡々と短い言葉を交わすばかりだったが、そこには二人にしかわからない感情が流れていたのかもしれない。

そんな二人を見て、ルードも、そして先程まであれだけ敵意をむき出しにしていたイリーナすらも、手を出すことなく佇んでいた。まるで自分達を見送っているようにさえ見える。

「あの時、イリスをとっ捕まえなくてよかった」

「え……?」

去り際、まさか自分の名前が呼ばれるとは思いもよらず、立ち止まり振り返った。彼は両手をポケットに突っ込んだまま、遠くを見るようにしてじっと立っている。

あの時、あの時とはいつのことを言っているのだろうか。思い返せば自分も、何度も彼等と対峙してきたのだと思い出す。

「捕まえてたら今頃宝条の餌食になってたなんて、胸糞悪くて夜も眠れねえからな」

「……」

謎の多い彼の真意は、その言葉から読み取ることができなかった。何と返事をしたら良いのかもわからず、ただ彼と同じように立ち尽くしてしまう。

「生きてりゃあなんとかなるぞ、と」

「……ありがとう、ございます」

彼が自分のことについて、どれほど知っているのか、どこまでを知っていての発言なのかはわからなかった。それでも彼の言葉はきっと、今の自分に向けられた、彼なりの激励なのだろうと受け取った。

一度頭を下げて感謝を述べると、今度こそ彼等の元を去るように歩き始めた。きっと彼等は追ってこない。むしろ宝条を止めにいけといわんばかりの言葉を投げ掛けて、彼等の"仕事"は幕を下ろしたようだった。

「アイツ、あんな奴だったっけ?」

「きっとレノたちにも色んなことがあったんだよ、オイラたちみたいに」

メテオが近付き星が崩壊しそうだという絶望的な状況下で、誰に何が起こっても不思議ではない。迫る死は人の心を変えるのかもしれない。

「レノの言う通りだ、ある意味な」

「どういうことですか……?」

隣にいた彼は、またこちらの手を取りながらそう呟いた。思えばこのところ、彼と手を繋がずに歩いた記憶の方が少ない。

「生きていれば必ず道はある。私はそれを探す」

「はい、私も」

「宝条を倒す、それは私の道の第一歩になるのかもしれない」

ビルの上層部、キャノン砲が取り付けられた部分を見上げる彼の瞳は、かつてないほどに鋭く光っていた。

見たことのないほど冷たい目をした彼が、その心まで冷たくなってしまわないようにと、繋いだ手を強く握り返した。自分の熱が彼の心に流れ込んでくれたらよいのにと、そんなことをどこかで考えていた。


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