闇からの使者

不可思議な滝の映し出した映像を見て、セフィロスの居場所に検討をつけた皆は、足早に飛空艇に戻った。シドが乗組員に指示を出し、船内には慌ただしく駆け回る足音が響いていた。

「あの、すんません」

「……なんだ?」

急いてしまう気持ちを抑えて皆がコックピットに集まっていたところへ、ケット・シーはまた手を挙げながら口を開いた。いつものようなにこにことした笑みが見られないことに、若干の不安を煽られる。

「ちょっと、びっくりしたもんですから」

「だからどうしたんだ」

クラウドとケット・シーとのやりとりを聞いて、皆も二人の会話に耳を傾けている。この忙しい時に一体何だと、話の先を急かすように視線を送る。

「ジュノンのキャノンがのうなってたの覚えてますか? あれ、実はルーファウスが運んだんですわ」

「運んだって……?」

「そういやあ、なーんか物足りねえ感じがしてたぜ。キャノン砲がなかったからだったのか」

イリスを含めた仲間がジュノンに捕らえられていたとき、彼等を救出するべくジュノンに赴いたことがあった。その時何かしらの違和感を覚えたのは、あの巨大な砲台が無くなっていたからだと気付く。

「あんなデカいものをどうやって……それも何処に、何故だ……?」

砲台の移動については疑問ばかりが浮かんでくるが、それ以上に、何故彼がこのタイミングでそんなことを話し始めたのかもわからない。セフィロスを目指し、飛空艇は北の大空洞に向けて出発の準備を進めつつある。そんな中、わざわざ意味もなく彼が話題にしたとも思えない。

「ルーファウスはあれでセフィロスを倒すつもりなんですわ」

「そんなこと、できるの……?」

ロケットをメテオに衝突させる作戦が失敗に終わったかと思えば、今度はキャノン砲で、
メテオを呼び寄せている張本人のセフィロスを倒す作戦に出ているらしい。

彼等の作戦に若干の期待を抱いてしまう一方で、本当にそんなことができるのかと懐疑的な気持ちも生まれてくる。

「あの大砲はヒュージマテリアの力で動いとったんですわ。でもヒュージマテリアはもう神羅の手にはあらへん。もうこのままやと、あの大砲は使い物にならんのです。せやから移動させたっちゅーわけです」

「ヒュージマテリアの代わりになるエネルギーが必要、ってことですか?」

「せや! イリスはんの言う通り、マテリアの……いや、魔晄の力が最大限に集中する場所に移動させたんですわ」

「神羅……魔晄……。ミッドガルか!?」

クラウドの声に、ティファとバレットの顔色がさっと青ざめた。あれほど巨大な大砲をミッドガルに運び、魔晄炉から吸い上げている魔晄を使い切る勢いで大砲を発射させようとしているのかもしれない。

そうだとすれば、ミッドガルに影響が出ないとは言い切れない。魔晄が大量に消費されることも気がかりではあるが、巨大な大砲を住人のひしめくミッドガルから発射すれば、住人の命も保障はできないかもしれない。

「……どうするべきなんだ。俺達はこのまま北に──うわっ」

「な、なに!?」

「地響き……? また地震か!?」

神羅の動向を聞いた上で、自分達はどうするべきか。クラウドがまた腕を組んで悩み始めた時、突如大きな地響きが聞こえてきた。大きく空気を振動させているその音の正体は何なのかと、皆がコックピットのガラスに貼りつくようにして、外の様子を窺った。



「なんなんだアレは」

「ウェポン……です」

飛空艇の停泊しているすぐ傍の海面から、銀色に覆われた巨大な生物が飛び出してきたのが見えた。それを生物と呼んでよいものか躊躇してしまうほど、大きく、それでいて無機質な表面をしている。

自分にはその生物に覚えがあった。アイシクルロッジのあの家で見たビデオの中で、ガスト博士とイファルナの二人がウェポンについて語っていた。

二人の会話から、ウェポンの外見についての特徴が聞けたわけではなかった。しかし、星の危機が訪れると姿を現すというその巨大な生物は、今まさに目の前で空中を漂っているそれであると、直感的にわかった気がした。

「ウェポンって何体もいたの……!?」

「そうみたいです」

「何処かへ向かっているようだ」

しばらくの間空中を浮遊していたかと思えば、進行方向を定めたのか、その巨体を動かし始めていた。重厚な鎧のようなものを身に纏っているにもかかわらず、その動きは俊敏だった。

「あわわわわわわ」

「なんでい! どうしたんだ!」

目の前のウェポンから目を離すことができずにいると、今度は飛空艇の操縦性に居た乗組員が素っ頓狂な声を上げている。次から次へと起こる出来事に、皆も理解が追い付いていない様子だった。

「大丈夫だ、落ち着け」

「は、はい」

困惑している様子を隠しているつもりだったが、彼はやはりそれに気付き、肩を抱いてそっと耳元で囁いた。キャノン砲がミッドガルへ運ばれ、海面からはウェポンが現れ、飛空艇内は混乱状態にあった。

それでも、彼の体温を感じながらその声を聞いていると、徐々に思考が整理されてくる。混乱していた頭は、彼の言葉通り、少しずつ落ち着きを取り戻していった。



「怪電波です! 飛空艇内の回線もやられています!」

「なんだとお!? どっからだ!」

先程から妙な揺れを起こしていた飛空艇だったが、どうやら怪電波の影響を受けてしまっていたらしい。一体何がどうなっているのかと、シドは乗組員に解析を急かす。

「……この人……? から出ている模様です」

しかし、解析の結果を出した乗組員達は、首を捻りながらも揃ってケット・シーの方を向いた。一斉に視線を注がれた彼は、デブモーグリのぬいぐるみから転がり落ちるようにして慌てている。

「のわっ! ちょっと驚いてコントロールが乱れてしもたみたいです」

怪電波などという不穏な言葉に、また一瞬彼を疑ってしまう気持ちが芽生えた。しかし、これまでの彼の行動や言動から、きっと何か予想外の出来事が起こったのだろうと考えを改めもした。

神羅のスパイだと、自らそう言ってた彼だったが、彼の想いは始めから星を救うことだったようにも思える。神羅か、反神羅かという垣根を越えて、彼は星のために尽力してきたのだと思い返す。

「しもたなぁ〜……。ウェポンがミッドガルに来よるんです」

「その運んだ大砲でなんとかなるんだろ?」

クラウドの問い掛けにも、彼は悔しそうに首を横に振っていた。いつもふざけたような口調の彼が、いつになく真剣な声音で話している。そのことが事態の深刻さを物語っているようでもあった。

「準備が間に合うかどうか……大量の魔晄を大砲に送り込まなアカンのです。ウェポンのあの速度やとギリギリか、ひょっとしたら……」

「おい、マリンはどうなるんだ!?」

彼の言葉を遮って、バレットは形相を変えてその小さなぬいぐるみに詰め寄った。それは星の危機を救う仲間の顔ではなく、ミッドガルに残してきたという娘の心配をする父親の顔だった。

「マリンちゃんは安全な場所に居てます。エアリスはんのお母さんも一緒ですわ」

「そうか……」

少なくとも愛娘に命の危険は及ばないとわかると、バレットは頭を掻いてその場を離れようとしていた。しかし、ケット・シーは珍しく声を荒げてバレットを引き留める。

「バレットはん! なんですか、今の『ぽりぽり』ってのは!」

「ああん? な、なんだよ」

「マリンちゃんが安全やったら、あとはどうなってもええんですか!?」

彼はその小さな身体で、大柄なバレットを睨むようにして見上げていた。バレットの方も、彼の威勢に圧されるようにして言葉を詰まらせている。

ケット・シーは「ただのぬいぐるみ」なのだと、彼自身何度もそう言っていた。そんあぬいぐるみの姿をした彼が、まるでそのボタンの目に涙を浮かべているような表情をしながら、荒げた声が飛空艇内に響き渡った。


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