待つ

(長編番外編)

「……そんなに見られていると手元が狂うな」

「あ、ごめんなさい……」

つい彼の綺麗な指先を見つめてしまっていた。

飛空艇の、自分達に割り当てられた部屋の椅子で、愛用の銃を丁寧に手入れしていた彼は、ふっと笑いながら顔を上げた。

そんなにじっと見つめてしまっていたのかと思うと恥ずかしくなる。

「……」

「無理に静かにしようとしなくていい」

「あ、はい……」

息まで止める勢いでじっとして待っていれば、彼はまた少し笑いながら話した。

どうもこの距離感に慣れない。本当にお互いの想いが通じあったのか、あれは夢だったのではないかとさえ思うほどに緊張してしまう。



「銃は、こうして手入れしなければ使い心地が悪くなる」

「そうなんですね。私は銃には詳しくなくて」

「銃に限らずどの武器も、手入れを怠れば使いづらくなり威力も落ちる」

物知りな彼の言葉に興味を引かれながら、手慣れた一連の動作を見つめる。一度銃を解体したかと思えば、手入れを終えて、再び元の形に戻してゆく。

「皆さん、見ていないところでちゃんとお手入れしているんですね」

「そうだろうな。それに、使っていくうちに武器が身体に馴染んでくる」

「馴染む……」

自分にはわからない感覚に、そういうものなのだろうかと首を傾げた。長年使い込んでいれば、その使い方にも慣れてくるということだろうか。

「使う者も、使われる武器も、互いに馴染んでくるものだ」

「すごいです」

ただの道具ではなく、そんな風に大切に扱っているのだと知って、皆のすごさを改めて実感した。

武器を持たない自分には、その感覚も、愛着もわからない。

「イリスもそうだろう?」

「え? 私は武器を持っていないので……」

「そうではない」

彼は手入れをし終わった銃をホルスターに収めると、椅子から立ち上がり、ベッドに座っていたこちらの隣に腰掛けた。

「人と人も同じようなものだ。互いに少しずつ歩み寄って、情が湧いてくる」

こちらの髪を掬いながら目を細める彼に、また緊張に身を硬くした。

「その緊張もいずれ慣れて無くなる。貴重な経験だ」

髪に口付ける彼に、はい、と小さな声で答えた。新しい物事の捉え方を学んだ気がして嬉しくなる。

「私が丁寧に"手入れ"をする、安心しろ」

「えっ……えっと……」

何やら含みを持たせた言い方にどきりとしてしまった。そのままそっと髪を撫で続ける彼に、これが彼の手に馴染むということだろうかと、微睡みの中、目を閉じた。


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