かしましい女子会

「でもさ、イリスも物好きだよね〜」

「ちょっとユフィ、それは失礼でしょ」

昼下がりののどかな時間、少女達の他愛のない会話だけが飛空艇に響いていた。

「ティファまでアイツがいいとか言うワケ?」

「いや、そういうんじゃなくて」

「ユフィ、ティファにはクラウドがいるから」

「あ〜、な〜るほどね〜」

「ちょっとエアリス!」

顔を真っ赤にして言い返すティファは説得力に欠けて、皆で笑いながら彼女をからかう。

「今はイリスの話でしょ!」

「それもそうだ」

「だね」

上手く話が逸れたと思いきや、再び軌道修正して話題の的に戻ってしまった。この三人に質問責めにされると、逃げ道がなくなってしまう。洗いざらい、徹底的に、拒否権は無いらしい。

「確かに背は高いしスタイルは良いと思うよ、スタイルだけは、ね」

「でも、ヴィンセントって落ち着いた良い声してる、よね」

「髪も、長くてサラサラしてない?」

ああだこうだと言い合う彼女達に、まともに受け答えしたら負けだと言い聞かせる。それ以上に、いざ言葉にされてしまうと恥ずかしいことこの上ない。

「それに、アイツ見かけによらず一途だったっけ」

「見かけによらず、っていうのは失礼ね」

「でも確かに、誠実よね」

また勝手に話が盛り上がってきてしまった。一度こうなってしまうと収拾がつかなくなるのだ。イリスは小さく溜め息をついて、この場からどうにか逃げ出したいと作戦を練り始める。

「「「で!?」」」

「で?って言われても……」

「だ〜か〜ら〜! アタシらの話聞いてた? イリスはアイツのどこに惚れたのか、って話!」

身を乗り出す三人と、それに反射的に仰け反るイリス。文字にするならばきっと、わくわく、という擬音がぴったりの表情で見つめられる。

「そんなこと言われても……」

更に身を乗り出す三人に、思わず目を逸らす。これは素直に答えてもからかわれてしまうだろうし、何も答えなくてもがっかりさせてしまう。

「い、言わない……」

「えぇ〜!」

「これだけためておいて、ねえ」

「それはないよ、ねえ」

ここまで来ると聞かずにはおれないと、ユフィは更なる尋問を続けるべく彼女にもう一歩近付く。

「何にも言わないってば」

しかし当の本人はそれだけ言うと、するりと三人の隙間を縫ってその場を逃げ出した。これは長丁場になるということが、経験則上わかっていた。早く抜け出すに越したことはない。

「照れちゃって、可愛いんだから」

「素直だけど、素直じゃないんだよね、イリスって」

「なかなか口割らないんだよな〜」

しかし諦めない。そんないたずらな視線が、三人の間で無言で交わされた。





「ヴィンセント!」

飛空艇内を歩いていると、甲板に佇む彼を見付けた。風を受けてマントが揺れている。彼のすぐ傍まで駆けてゆくが、いつものように抱き寄せてくれない。

「ヴィンセント?」

どうしたのだろうかと首を傾げる。具合が悪いような様子でもなければ、怒っている様子でもない。自分から抱き締めようと両手を伸ばしたイリスに、彼はふっと笑いながら口を開く。

「私にも教えてはくれないのか?」

「え……?」

一体何の話だろうかと、考えを巡らせた。そして、口許に含み笑いを浮かべた彼に、伸ばした腕を引っ込めた。

「き、聞いてたの!?」

「たまたま通り掛かった」

恥ずかしさから、頬を膨らませてむっとした表情をする彼女に、すまなかったと謝りながら、今度こそその腕に抱き締めた。


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