冬の朝は起きられない

……寒い。

目が覚めたイリスは、しかし、重い瞼をあげることが出来ずに、寒い寒いと頭の中で反芻するばかりだった。

「んぅー」

手探りで身体に掛けるものを探すが、毛布の温かさも布団のやわらかさも感じられない。

「……」

見つからないのならば仕方がないと、そのまま再び夢の世界へ戻ろうとする。身体の力を抜けば、眠りはすぐそこまでやってくる。

「さっむい!」

寒い寒い寒い。

彼女はパチッと目を開け、首だけをもたげて、自分と布団との位置を確認する。毛布も布団も、だいぶ離れたところにある。どおりで寒いはずだった。

温もりと癒しを与えてくれる毛布達は、ヴィンセントの呼吸に合わせてゆっくりと上下してる。毛布達を、彼が独り占めしてる。

「……」

「あったかあい」

イリスは布団の隙間から身体を捩じ込んで、毛布とベッドとの隙間をきっちり閉じた。そうして、背を向けて眠るヴィンセントにぴったりとくっつく。

なんとあったかくて気持ちの良いところなのだろう。ひとつのベッドに二人で入り込んで、同じ毛布を被る冬というものは、この世で最も癒される場面のひとつかもしれない。

「おやすみ、ヴィンセント……」

幸せな気分に包まれながら、彼女は再度、眠りについた。



「……ん?」

ふと、背中にあたたかいものを感じて、彼の意識が覚醒した。かすかに感じられる呼吸が、寝返りすることを躊躇させた。そのまま、彼女に背を向けた格好を保つ。

「……」

どうしたものかと、身動きの取れないまま考える。窓の外は薄暗く、まだ眠っていてもいい時間ではあった。

「……」

しかし、すっかり目が冴えてしまった。眠りが浅い上に、一度目が覚めるとなかなか眠れなくなる。いっそこのまま起きてしまおうかと、布団から抜け出すべく片腕を出した。

「……んっ」

とても弱い力で、しかし、しっかりと服の裾を掴まれた。そっと彼女を見れば、顔をマントに埋めてすやすやと眠っている。

きっと、やんわりと手をどければ彼女は起きない。しかし、彼女の眠りもまた、浅いことを知っている。布団の中ではいくら動いても目を覚まさないくせに、いざベッドを降りようとするとパチッと瞳を開けるのだから不思議だ。

近くに居る人間が離れ、目の前から居なくなることを、彼女は恐れているのかもしれない。





「ん……。おはよう、ヴィンセント、」

「ああ」

「あれ……? いつのまに」

いつの間に抱き締められていたのだろうか。ふとそんな疑問が浮かんだが、まだ覚めきっていない頭で考えることは到底無理なことだった。

抱き締めるように回された腕の中が心地良く、寝惚けたまま彼の胸に顔をすりよせた。

「やっぱりここが、いちばんあったかくてしあわせ」


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