2日目 夜

「目が覚めたか?」

ゆっくりと目を開けると、目の前に綺麗な瞳が見えた。まっすぐに見つめられていることが恥ずかしなり、布団を引っ張り上げて顔を隠す。

彼はこちらの頭に大きな手を乗せて、優しく撫でた。そんなことされたら、また安心して眠くなってしまう。

毛布に少し顔を埋めた額に、彼はそっと、触れるだけの口付けをした。

「ふふ……くすぐったいよ」

「それは心外だな」

そう言うと、腰に腕を回してぐっと引き寄せる。そのことに驚いて、毛布から顔を出した頬に、彼はまた口付ける。

胸が高鳴るのを感じた。今日の彼は、いつにも増して甘やかしてくる。甘やかすというよりも、ただじゃれているだけかもしれない。いずれにしても、彼を愛しく感じることに変わりはない。

「ヴィ、ン……」

彼は上から覆い被さるようにして、今度は唇に口付けをした。彼の長い髪が頬をかすめてくすぐったい。そのことにふふっ、と笑うと、拗ねたように更に熱い口付けをされた。

「……ん、…ふっ、」

「………、……」

彼は恐らくキスが上手い。こんなに長い間唇を合わせていても、彼は呼吸を全く乱さない。こちらは息があがって、頭がぼうっとしてきているというのに。だんだんと、ふわふわした感覚に襲われる。

「そんなに物欲しそうな目をされると困るな」

いつの間にか唇を離した彼は、からかうようにそう言った。

「そ、そんな目してない!」

それにムキになって答えてしまう辺りがまだまだ子供っぽいのかもしれない。

「ふっ」

彼は優しく笑うと片手で頭を撫でながら、もう一方の手はベッドサイドを探っていた。

「イリス、」

そう言うなり、彼は耳を触り始めた。長く細い指で、するするとなぞられる。

「え、ヴィンセント……まだ朝だよ、」

しかし彼はすぐに手を離すと、おかしそうに笑った。

「何か勘違いしてはいないか?」

「え、」

「まあ、お前がその気なら襲ってもいいが……」

自分の勘違いに気付くと、恥ずかしさから、顔が真っ赤になる。わざと勘違いをさせるようなことをしておきながら、意地悪く笑うのだからずるい。



ふと、自分の左耳に違和感を覚えた。そっと触れてみると、なにやら金属質な手触りを感じた。

「ヴィンセント、これ……」

そう言うと、彼はベッドの上に座り直して、手をこちらに近付けた。彼の手の平には、赤と銀のキラキラと輝く耳飾りが輝いていた。銀色のチェーンの先には、赤く丸い装飾がついている。

これと同じものがきっと、自分の左耳についているのだ。動きに合わせて、チェーンもゆらゆらと揺れながら。彼がこんな風に贈り物をしてくれるとは思ってもいなかった。

「もうすぐ、一年になる」

「……覚えててくれたの?」

「何を渡すべきか迷ったんだが、どうもこれが──」

「ありがとうヴィンセント! とっても嬉しい、本当に嬉しい! ありがとう、大事にする!」

嬉しさのあまり、彼が言い終えるよりも先に、彼に抱き付いた。

彼の恋人になって、もうすぐ一年になる、そのことを覚えていてくれたことも、こうして贈り物をしてくれたことも、何もかもが嬉しい。喜びと感動が込み上げて、彼の胸にすりすりと頭を寄せた。

「ありがとうヴィンセント」

普段やや淡白な彼が、律儀に日付を覚えているとは思ってもいなかった。それも、こんなキザな渡し方をして、これ以上彼を好きになってしまったらどうしてくれよう。

一層強く彼に抱き付くと、彼もまた強く抱き締め返した。彼のマントに顔が埋まって、少しだけ息苦しい。しかしこの息苦しさすら、彼に抱き締められている実感になり、安心になってゆく。


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