3日目 朝

「……」

またあの夢を見た。いつもと同じ天井を見ると、冷たい現実に引き戻されたのがわかった。部屋はまだ薄暗く、時計は5時過ぎを指してる。早く起きすぎてしまった。

二日も続けてこの夢を見たのは初めてだった。それだけに、とても悲しくもあった。もう少し、夢の続きを見ていたかった。

ただの現実逃避なのだろう。学業に追われ、人間関係に頭を悩ませている現実からの逃避が、あの幸せな夢を見せているのだろう。

そうだとわかっていても、あの人に、彼に会いたいと思ってしまう。それほど、あの夢の中が大切な時間になってしまっていた。

馬鹿馬鹿しい、ただの夢だというのに。現実はこっちなのだ。今日も一人で朝食を食べて、一人で大学へ行って、一人で授業を受けて、また一人で帰宅する。

「……」

そう考えたら、なんだかとても愚かしく思えてきた。夢の中の人に恋焦がれるなど、疲れ過ぎにもほどがある。

「よしっ!」

気合いを入れてベッドから起き上がった。その時、左耳に違和感を感じた。

まさか、そう思いながらそっと耳に触れると、そこには確かに、あの耳飾りがついていた。

まさか。まさか。そんなはずはない。

混乱し、急いてしまう心を必死に抑え込みながら、洗面所の鏡の前まで駆けた。

「う、そ……」

鏡の中の自分は、いつものパジャマ姿に、寝起きの髪は寝癖だらけのひどい有り様をしていて、眠そうな目をしていた。いつもと同じだった。ただひとつ、左耳の耳飾りを除いて。

「ヴィ……」

ヴィンセント。その名前を口にしようとした途端、涙が頬を伝った。夢の住人の名前を口にするのは、どうも憚られた。しかし、目の前に映るのは、確かに昨日まではなかったはずの、片方だけの耳飾りをつけた自分だった。

こんなことが起こるはずがない。自分はまだ、夢を見ているのかもしれない。





「あれ、イリスちゃん、ピアスしてたっけ?」

「あ、ううん。……えっと、今日からつけてきたの」

「可愛いね! どこで買ったの?」

「あ、えっと、……どこだろ」

「もしかして貰い物!?」

結局、その耳飾りを外す気になれず、そのまま大学へ来てしまった。身に付けていれば、彼を近くに感じることができる気がした。

友人達は、男性にもらっただの、彼氏が出来ただのと、こちらのことなどそっちのけで盛り上がっている。

「いいな〜、今度紹介してよ!」

「私も見たい! ねえねえ、どんな人? 同じ大学の人?」

その後、皆の質問責めに合ったが、夢の中の彼氏に貰った、などと言えるはずもなく、お茶を濁してその場を切り抜けた。

また詳しく教えてねと、友人達から最後にそんなことを言われた。詳しく教えて、その言葉に苦笑いをしてしまう。何がどうなっているのか、自分こそ詳しく教えてもらいたい。


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