2日目 朝

「……!」

はっと息を飲み込んで、その瞬間に目が覚めた。ベッドには、カーテンを通り抜けて眩しい朝日が差し込んでいる。枕元の時計を見ると、時刻は午前6時40分を過ぎたところだった。

いつもより少し早い目覚めに、いつものあの夢だった。

「ヴィンセント……か」

この夢を最初に見たのは、もう何年も前のことだった。自分は、こことは違うどこか他の世界で、"仲間"と"旅"をしている。そんな内容の夢を見る。

初めは、楽しい夢だと思っていた。日常生活では味わうことの出来ないスリルと、広大な自然の雄大さと、不思議な力の宿る星の夢は、見ていて心が踊った。

しかし、この夢を見る頻度は、歳を重ねる毎に高くなっていった。

年に一度、半年に一度、それがだんだんと、月に一度、週に一度、ついには二、三日に一度という頻度でこの夢を見るようになっていた。

「あーあ……」

夢は、直前に見た夢の内容と連続している。まさに、旅の続きを見ているのだ。自分はそこでもイリスと呼ばれ、素敵な仲間に恵まれている。そして、どうやら素敵な仲間の一人と恋愛までしているらしい。

「……」

ばかばかしい、と布団をかぶり直しながら自嘲した。

夢の中の自分は、それが夢であることを知らない。完全に夢の世界のイリスとしての人格を持ち、夢の世界のイリスとして生きている。それ故に、目が覚めたときはつらい思いをする。これは夢だ、現実はこっちだ、と急に現実に引き戻されてしまう。

ただの夢だ。ただの夢だというのに。

「ばっかみたい」

本気で"彼"を愛しいと思うなど、どうかしている。





「イリスちゃん、大丈夫?」

「えっ」

「顔色よくないよ、食欲ない?」

「う、ううん! ぜんっぜん大丈夫!」

大学の食堂でぼーっとしてしまっていたらしい。心配そうに顔を覗き込む友人に、無理矢理作った笑顔を向ける。

今の生活は楽しい。大学で学びたいことを学び、少しの趣味を満喫しながらも、きちんと学を修めているつもりでいる。友人にも恵まれて、何も不平はない。

ただ、たまに、抜け出したくなる。この煩わしい世界から抜け出して、全く別の世界へ行きたくなる。

一旦そう考えてしまうと、どうしても、あの夢を思い出す。夢の続きを見たくなる。

「寝不足なんじゃない?」

「いや、ちゃんと寝てるよ! 本当に大丈夫!」

寝不足、という言葉はきっと間違っている。睡眠時間はきちんと確保している。寧ろその睡眠中に見る夢が問題なのだ。そのせいで、こうして日常生活に支障をきたしつつあるというのも、皮肉な話だった。

けれど所詮、夢は夢でしかない。いくら大変な旅をしていたところで、それは夢の中での話で、朝起きればきちんと疲れは取れているし、日中眠くなることもない。だから、どう考えても、あれはただの夢なのだ。

「……夢」

「え?」

「え、あ! その、すごく怖い夢みちゃって……」

「疲れてるんだよきっと! あんまり無理しちゃダメだよ」

「はいはい」

本気で心配してくれる友人に、少々苦笑いで答えた。なんだか申し訳ない。この疲れが、よもや夢のせいだ、などとは言えない。


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