のどもとじあん
エアリスに相談し、教会を後にしたイリスは、セブンスヘブンへ向けて足早に歩いていた。その表情は、どこか楽しげでもあり、足取りも軽い。
「いらっしゃいませ──イリス!」
「ごめんティファ。今、大丈夫……?」
「うん、全然へいき!」
そう言いながらカウンターの席をすすめるティファは、突然の来客にも快く出迎える。幸いにも昼の店内には一人の客の姿も見えない。
「あのね、ちょっと手伝って欲しいんだけど……」
「イリスが相談なんて珍しいね。どうしたの?」
どうぞ、とイリスにジュースを出しながらカウンターで頬ずえを付いている。
「いくつかあるんだけど……」
出されたグラスを両手で持ちながら、イリスは申し訳なさそうに言った。カラン、と音をたてて中の氷が動く。
「あのね──」
「ったく、やってらんねーぜ。お、よう、イリス! 昼間っから何やってんだ」
せっかくイリスが話し始めようとしたところを、思いがけない侵入者によって遮られたことに、ティファは少し腹を立てたようだった。カウンター越しに店の入り口を見れば、何かに苛ついた様子のバレットがいた。
「バレット」
ティファがむすっとした顔でそう呼ぶと、たじろいだ様子の彼は、若干気まずそうに鼻の横を掻いた。
「わ、わりい……出直してくるわ」
「あ、待ってバレット!」
扉に手をかけて、今にも立ち去ろうとする彼をイリスが引き留める。これにはティファもバレットも少し驚いたようだった。
「イリス、いいの?」
「うん! むしろ助かるよ。クラウドも居れば更に」
「クラウドなら、もうすぐこっちに来るぜ」
「本当? グッドタイミング!」
何故か嬉しそうなイリスに、状況の飲み込めない二人は目を合わせた。その後、クラウドのものと思われるバイクの音を聞いて、イリスはわざわざ入り口までクラウドを迎えに行くほど、意気揚々としていた。ますます不思議そうな二人と、困惑したクラウドをよそに、イリスは改めて頼み事を申し出た。
「三人とも、本当にありがとう! とっても助かった!」
「ううん、私達も手伝えてよかったよ。ヴィンセントも、きっと喜んでくれる」
ティファの言葉を聞いて、にっこりと笑顔を向けたイリスは、再度三人に礼を言うと、カウンターの椅子から威勢よく飛び降りた。
「本当にありがとう! ティファ、忙しいところごめん」
「ううん、全然! 昼間っから飲みに来る客なんてほっとけばいいのよ」
ティファの言葉にクラウドとバレットの二人は苦笑いを浮かべる。
「クラウドもバレットも、ありがとう! 今度お礼させてね!」
それだけ言うと、イリスは店の扉を開けて、振り返りもせずに出ていった。カタン、と扉が閉まると同時に、クラウドの顔も綻んだ。
「ヴィンセントも幸せな奴だな」
「本当にね」
「俺ぁイリスに頼まれたからやってやったんだ、アイツのためじゃねえぞ!」
「ふうん……? 本当に?」
「あ、当たり前だろ!」
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