The Bride of Halloween | ナノ
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≫ 実力派エリートは暗躍する


三門市――ボーダー、本部。
珍しくも迅は本部に顔を出していた。それもこれも、視えた未来を変えさせるつもりがなかったからである。

「や!どーもどーも実力派エリートです」

会議中の本部幹部連は胡乱な目をした。
議題を隠したいのか、さりげなく全員が手元の書類を隠したけれど意味はない。迅はもう知っている。

「おれも参加するんで」

決定事項だった。譲れるはずもない。
本部に顔を出す頻度が減っていたけれど、見逃すはずもない『未来』だ。根付が頭をかかえてうめいた。城戸は相変わらずの能面だ。
玉狛支部長たる林藤を除いた極秘会議の目的は明らかだった。

「風刃争奪戦。適合者はかなりいるみたいだけど、おれが勝ちますよ?」

おれのサイドエフェクトがそう言ってる、と自信満々に言って見せる。実際は、そこまで確定しきってはいないけれど、ブラフは必要だ。争奪戦なんて面倒なことをせず、そのまま迅に渡してくれないかという甘い目算もあったが。

「強すぎる執着は、目を曇らせる」
「どうかな?おれは、そうは思わないけど。それに、おれが一番うまくつかえる――もう『視えてる』」
「・・・・・・争奪戦に関して言えば、まだ日時は正式には決定していない」
「そう」

迅はにこやかに笑った。

「じゃあ、決まったら教えて。取りに来るから」
「随分な自信だな」
「実力派エリートですから」

いつからか、言うようになった口上はどこか突き放すような響きがある。飄々と振る舞おうとして、けれどそれでも瞳には確かな執着が燃えていた。どうしても欲しかった。だって、他に自分が『欲しい』なんてわがままを言っていいものがこの世で他にあるとは思えなかったからだ。欲しいものは、確かに幾つもあった。ひとつずつ、諦めてきた。優先すべき『未来』のために。だからこれはどうしても。

「欲しいんだ、城戸さん――誰にも譲る気はないよ」

最初で最後の我がままだから許してほしかった。他の誰でもない、最初にあれを手にするのは自分でありたい。例えいつか手放すことになるのだとしても。
回りくどいけれどしょうがない。争奪戦?大いに結構。
起動テストはこれからだろうから、この時点で迅の方が情報が多かった。迅は既に誰が争奪戦に参加するのかもちゃんと知っていた。

(城戸さんたちは、太刀川さんに期待してるんだろうけど)

そこだけが、迅にとって珍しい幸運だった。最上の考えることは昔からわからない。嵐山や風間は起動できるのに、よりにもよって太刀川だけは起動できない。ブラックトリガーは難儀な武器だ。人の形を武器に変えたソレは、起動させることのできる人間が大幅に制限されることの方が多い。風刃、逆だった。起動できない人間の方が少ない。なんでだよ、とも思う。おれだけにしといてよ、と甘ったれた恨み言を言う権利はあったはずだ。起動できる人間が多ければ、戦略戦術の幅が広がる。未来視による『選択』の幅も同じだけ増えていく。だから、この起動可能者の多さは最上の迅への置き土産だとも解釈はできる。
太刀川慶は起動できない。争奪戦を憮然と眺める太刀川のビジョンが視えた時、迅は素直に驚いた。だって、起動できると思っていたのだ。
選り好みの少ない黒トリガーが、よりによって現状でトップを走る男をはじくだなんて。

「風刃は、おれが貰う」

例え他のもの全部を諦めることになるとしても、これだけは。

「進学はしないそうだな」
「その話ならもうボスが承諾済みだから問題ないよ。おれ、忙しいしね」
「新規定がある。黒トリガー所持者はソロランク戦からも抜けることになる」
「仕方ないね」

さびしいけれど、しょうがない。
迅はもうずっと選択し続けている。他のみんなと大学に行く未来だってなかったわけじゃないけれど、それは過ぎた望みというものだ。高校時代だけでも充分にお釣りがくると迅は思っている。ボーダーは、急速に三門に根を張りつつある。近く、ボーダーからの内部推薦による大学入学というルートもできることが決まりつつある。けれどまだまだ足りないのだ。今だってほんとは時間が足りない。授業なんて出てないで、もっと暗躍に飛び回るべきかもしれないけれど、そこまでやると同世代から不審を買う。それは避けたいのだ。ボーダーのことを『信じてもらわなければならない』


「楽しかったよ城戸さんが作ったシステム。もっとずっと遊んでたかったけど、そういうわけにもいかないよね」


学生服を、着て行ったのは大人たちにとっては視覚的な意味で効果があったはずだ。嫌な手ではあるが、心のやわらかい部分を丁寧にひっかく。迅は実際には自分が庇護されうる子供ではなく、最初から最後まで共犯者であり、どちらかといえば主犯は自分であるとすら思っているが、大人の見解は違うのを知っている。こんな手を使ってまで、欲しいのだ。見え透いているが、アピールとしては充分だ。
黒トリガーを所有すれば、たのしい日々が早々に終わってしまう。城戸が新たに作り上げたお城は楽しかった。悔しくなるほどに。
けれどいつまでも、お城で遊んでいる側ぶっているわけにはいかないのだ。そんなこと許されるわけもない。共犯なのだから。
だから迅は、だれより先に『おとなになる』のだ。完全に。完璧に。
そして、子供時代の卒業証書代わりになるものがあるとすれば、それは――『風刃』にほかならないと信じていた。

後日、風刃争奪戦の開催が通達された。









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