The Bride of Halloween | ナノ
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PastU


――再び、三年前。

『なんだかお疲れだね?バーボンとスコッチ』

アンバーはどことなく普段の勢いのない二人にくびを傾げた。
隣のライは素知らぬ顔で銃の手入れを続けている。

『問題ない』

バーボンが相変わらずのそっけなさで言う。問題ない、というにはボロボロであるのだがおとなしくアンバーも口をつぐんだ。アンバーもそれなりにくたびれていたのだ。

『渋谷の方でガス漏れ事故だって大騒ぎだったっぽいけど、これって組織の仕事かな』
『さあ?』とそっけない返事をバーボンがした。

――まーったく美人がつんけんしてちゃもったいないよなぁ?

耳元で、だれかの声がした。それが『どういうもの』かは慣れたものでわかっていた。死者の声だ。生者とは、どこか周波数が違うようなそれは、恨みがましいものを聞くことの方が春は多い。しかし、今の声は。どこか甘い、茶化すような声音だった。
誰だろう。
そっと、後ろを振り向いた。誰もいない。当たり前だ。そこは壁なのだ。

(美人、美人・・・・バーボン?たしかに美人さんだ)

死者の声が聞こえるのは、そこに強い思いがあるときだ。若い、声だった。声での年齢特定は難しいけれど。
あたたかな声だった。案じるような響きがあった。

(だれだろう)

軽い興味があった。組織では極力余計なことをしすぎない、とライ――赤井と約束していた。潜入捜査上での興味というよりは、ごく個人的な興味だった。10月の終わり、ハロウィンの日は、あちこちで死者の声を聴く。
優しい思いは淡く溶けるように思い人へとささやかれるから、騒がしい世界を呪うような死者の声にかき消されがちだ。
完璧超人みたいなバーボンのことを案じるのは、スコッチくらいなのではと思っていた。
バーボンにそっと触れようとして手をのばし、けれど途中でやめた。
ただの興味本位で、任務でもないのに他人の過去に土足で踏み込もうとした自分が恥ずかしかった。体調が悪そうにしていた自分を、傷だらけの癖に気遣ってくれた人へすべき行いではない。

だれにだって、秘密はある。
ポケットにしまいこんだ一枚の名刺をそっと指先で撫でた。機嫌のいいバーボンがコーヒーを入れてくれて、スコッチがギターの続きを教えてくれた。




:




突然、またベルモットから押し付けられたお使いは杯戸ショッピングモールの観覧車でデータの入ったUSBの受け渡しだった。学生の方が目立たないだろうという話だけれど、ジンやウォッカが以前に水族館で金の受け渡しをするところに立ち会わせてしまったアンバーは「なんで誰も職質かけないんだろうな」と心の底から不思議だった。
なので今更過ぎるだろうと思った。けれど組織内で発言力のあるベルモットに逆らえるはずもない。
『72番の観覧車』を指定されて、なんだか言う通りにしたくなくて「他の番号がいい」と珍しくも文句を言ってみた。あら珍しい、とベルモットが電話の向こうで笑った。なら好きな番号でいいというので少し考えて、ちょうどテレビでやっていたディスカバリーチャンネルが――海洋は地球のおよそ71%を占めるというナレーションをきいて「71で」と答えた。

(わたしは、いつでも間が悪い)

後になって、悔やんだ。どうして、あの時素直に頷いていなかったんだろう。いつでも、間違えて、取りこぼすのだ。










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