The Bride of Halloween | ナノ
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@ポアロ


目を覚ますと、窓から見える空の色はすでに暗くなっている。飛び起きた瞬間に足元に落ちたものを見ると、だれかの上着だった。拾い上げて、埃を払う。

「起きましたか?春さん」

にこやかな声で、呼ばれてびくりと肩をゆらした。
暗がりから姿を現したのは、張り付けたような笑みをたたえた『安室さん』だ。飲みかけだったはずのティーカップは既に片付けられていた。ここしばらくの夢見があまりにも悪すぎて、風見にくっついて回っていたら邪魔だと言われて放り込まれたポアロで、しぶしぶ本を読んでいるうちに寝入ってしまっていた。仕事が片付けば家庭教師をしてくれると言っていたのでスマホを確認するが、風見からの連絡は入っていなかった。以前は過保護にかまわれるのに恐縮していた春のほうから熱烈に付きまとわれて、風見はどこか困惑しているようだったが、知ったことではない。何かの違和感は、答えをつかむまで追い続けないとあっという間に零れ落ちるのだ。

「・・・・・まだ、他にどなたかいらっしゃるんですか安室さん」
「いいえ?貴方が最後のお客様ですよ春さん。もう遅いですし、送っていきますよ」

誰もいないが、安室さんモードを続行し続けている。あとはもう、店を出て鍵を閉めるだけのようだった。送っていく、ということは今日はもう風見は来ないに違いない。
かけてくれたであろう上着を返すと、さっと安室はそれを羽織った。そこで、呼び出し音が鳴った。
別件で『降谷』が動くのなら一人で帰ると目配せするが、そこで待っていろと手で指示された。聞かれて困らない相手、というなら思い当たるのは一人だ。

「風見か」

『安室さん』の顔が『降谷さん』に変わる。

「なに?」
声のトーンが下がった。また何か「公安がつとまっていない」ことを風見がしてしまったのか。この人は自分に厳しく、他人にも厳しいタイプである。春は何度か心がくじけそうになったり、一部「いや無理ですって」と潔く諦めたりしているが、腹心の部下たる自負がそうさせるのか風見はかなり頑張っていた。

「――脱獄?あの男が?」

あの男。ぞわり、と背筋を冷たいものが走った。通話を終えた降谷とて動揺していたに違いない。誰が脱獄したのか。その問いに降谷は答えた。
それは、かつて連続爆弾殺人事件を引き起こし、つい先ごろ一人の少年の活躍によって逮捕された――降谷零の警察学校時代の同期二人を爆殺した男だった。
春の脳裏を、秋の青空がよぎった。
美しい秋晴れの中で、回る観覧車と、爆音。立ち上る黒い煙が。
すべてを散らせてしまう瞬間を。








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