The Bride of Halloween | ナノ
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予兆


くらがりのなか、しとしとと雨が降っている。
雨音が、耳の奥まで響いて、酷く煩い。

『困ったことがあったら、連絡して来いよ』

誰の声だったか。一瞬悩んで、けれど辿り着いた答えに胸の奥がきゅっと締まる。
もうどこにもいない人の声。過去からの囁き。
暗がりにスポットライトがあたる。大きな観覧車が回っているのを、春は見上げていた。
もう随分と見ていなかった夢だ。
観覧車は死神の乗り物のひとつだと、密かに春は思っている。
逃げ出したいのに、足がぴくりとも動かない。
雨音がやまない。あの日は、雨なんて降っていなかったというのに。
かちり、かちりと時計の針の進む音がしはじめる。
カウントダウンは針が12の文字をさす時間だったのをはっきりと覚えている。

――松田、刑事。

観覧車の一つが、花火のように爆発した。あの時聞こえていたはずの悲鳴は聞こえない。
雨音、雨音、雨音。フラッシュバックする。渋谷の夜。
気が付くと、足元に水たまりができていた。
ぽちゃり、とそこにサングラスが落ちてきた。違う、これは過去ではなく夢だ。
こんなことはなかった。すぐさま規制線がはられ、観覧車周りは封鎖された。人の流れにおされながら、それを見ていたはずで。あの日は。あの日は雨は降っていなかった。嫌になるくらいの青空のひろがった秋晴れの日。
ゆっくりとしゃがみこみ、水たまりに落ちていたサングラスを拾おうとした。

(あれ?)

サングラスは形を変えていた。
ただの眼鏡だ。黒はどこにいったのか。その形状にどこか見覚えがあった。
触れようとして、指先をのばす。
ずぷり、と水に指先から腕、そして自分自身が沈んだ。

(あれって、)

眼鏡をかけている人は、周囲に何人かいた。順繰りに思い出していく。誰のものだ。どこで見た?
赤井の変装、棋士の秀吉、江戸川少年、弁護士の橘さん、阿笠博士に、工藤優作さん。それから――それから、

(――風見さん?)

それは確かに、風見裕也の眼鏡だった。









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