≫ 風刃争奪戦
最後に立っていたのは、迅だった。
太刀川はそれを憮然と眺めていた。風刃の争奪戦、黒トリガーの所有者はランク戦を抜けてソロになる。ランク戦の記録に並ぶ自分と、迅の名前を苦虫をかんだような顔で睨んだ。
「あいつさ、俺に言ったんだよ風間さん」
全部が終わって、太刀川は風間を捕まえた。聞いてほしかったのだ。
迅は言ったのだ。『争奪戦でおれを負かして、所有権手に入れたうえで放棄すればいいんじゃない?』ランク戦を抜けるのを嫌がる太刀川はそれを実行しようとした。つまらない。迅のいないランク戦も、自分がランク戦を抜けるのも。だから、勝って、上層部に叩き返してやるつもりだった。それなのに。前日に行われた起動チェックで太刀川ははじかれた。
「・・・・・・結構な人数が聞いてた。だからほとんどの奴らは俺と迅の一騎打ちになるだろうって思ってたんだよ」
「聞いてないな」
「風間さんシフト入ってたからね」
それだって偶然だとは言い切れない。
「なんで、俺じゃ駄目だったんだろ。あいつのこと、ぶん殴って止めて『こんなもんいらねーだろ!』って言っちゃ駄目だった?最上さんって人はさ、俺の何が気に喰わなかったんだ?」
「してやられたわけだ。全員お前と迅が一騎打ちになると思い込み、結果直前でそれが無理だとわかった。・・・・・もっと早くにわかっていればもう少し連携もできただろうが・・・上層部の認可が必要な書類がひとつ滞ったせいで、芋づる式に起動チェックが前日夕方までずれこんだのが影響したな」
「あれだろ、渋谷の爆弾事件。ホテルが近くだったから荷物もそのままで急遽非難する羽目になったって唐沢さんが。その出張だって一週前に行く予定が『なぜか』延期になってる」
「・・・・・・それも迅の計算だと?」
「確証はないけどさ」
むっつりと太刀川は口を尖らせた。
全て、迅の掌の上だった。それだけは間違いないと確信していた。
「もし、」
風間が言葉を区切った。
「もしも『アレ』が忍田さんだったら、お前はどうした太刀川」
「正々堂々で勝ち上がらないやつに忍田さんの黒トリが起動できるわけないじゃん」
太刀川に迅の気持ちはわからない。知らないのだ。旧ボーダーについて、新世代とも呼べる太刀川達は多くを知らされていない。断片的に漏れ聞こえてくる情報だけですべてを判断することはできるはずもない。
忍田が黒トリガーになったら。自分は欲しいと思うだろうか。どんな手を使っても?後ろ暗い手段をとった時点で、起動できなくなるのが目に見えるようだった。太刀川の師はそういう人だ。
「迅は、どんな手を使っても欲しかったんだろう。俺たちの裏をかいてまで」
「・・・・そもそも不意打ち同然で動揺してるとこひっさらって意味なくね?一番うまく使えるやつが持つべきだろ。あーあ、俺が参加できてりゃな。見る目ないよモガミサン」
つまらない。明日からのランク戦はきっと今よりもずっと面白くない。
「俺、もっともっと強くなるよ風見さん。あいつがあんなもん持って勝ち逃げしてる間に。黒トリガーなんかなくても、黒トリガーを持ってる迅に勝つ。ぜったいに」
風間が珍しく表情をゆるめた。多分、笑顔だった気がする。あんまりにもレアな表情だったから、迅への憤りも一瞬すっぽぬけた。
「え、なになに。どういう感情それ風間さん?俺おもしろトークしたつもりはないんだけど」
「いや。太刀川らしいと感心した――諦めないんだな、お前は」
「風間さんもやる?次は全員できっちりボコろうぜ。あいつが、余裕ぶちかましてる隙もないくらいにさ」
「悪くないな」
面白くない迅がいない明日からのランク戦を、違う面白さで埋め合わせる計画に珍しくも風間がのってくれて少しだけ気分が上向きになった。
「ほえ面かかせてやろうぜ」
拳を握って片手を差し出すと、同じように風間が拳を突き合せた。
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