The Bride of Halloween | ナノ
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墓地にて


渋谷近くの寺にある墓の前で、春はそっと花を手向けた。
そこにはもう幾人からかの線香が、灰になっていた。ポケットから取り出した一枚の名刺をそっとその墓に備えた。

(萩原研二、松田陣平、諸伏景光、伊達航――それから、フルヤレイ)

コナンにデータを渡すためにとってきてくれと頼まれて、たった一枚だけの写真をとりに降谷の部屋にいったのは春だった。
肩を並べた青年たちは、無限の未来を前に輝いていた。その数年後には、たった一人をのぞいて全員が死んでしまうなんて悲劇が待ち受けているなんて微塵も感じさせない。
悲劇。いやそんな陳腐な言葉ですませてしまうのは失礼なのかもしれない。
彼らは全員、それぞれの人生を全力で生きていたのだから。
手を合わせて、祈る。ハロウィンが終わると、びっくりするくらい静まり返った自分のまわりには馴染みの幽霊もいない。目覚ましのかけ忘れも、鍵を落っことした場所も、だれだか覚えられなかった人の名前を耳打ちしてくれるのも、眠れない夜にくだらない雑談につきあってくれるのも、おはようも、おやすみも、ぜんぶ。さよならすら言わないままに。

目を閉じると、その場所に刻まれた過去が走馬灯のようによぎっていった。一人、また一人と減っていって。ひとりだけで、この墓の前にたつ降谷が視えたところで、ゆっくりと目を開けた。
もしも、と考えるのはおそらく高慢なのだろう。名刺を手に取り、持ってきたライターで火をつけた。線香の灰と、名刺の灰が重なった。

「八嶋」

声がかかる。

「風見さん、長生きしてくださいね」
「・・・・・この人達の代わりはいないだろう」
「代わりなんかじゃないですよ。風見さんは風見さんしかいないんですから。生きてるのは、風見さんなんですから」

迎えにやってきた風見が、眼鏡を片手でなおした。

「それは君も同じだろう」
「・・・・・・・・そう、なんですかね」

生者にしかできないことは、確かにある。どれだけちっぽけでも。
手を合わせて、死者を偲んで。誰も知らない、無力で非力な自分を責める。
コナンがいて、風見がいて、優秀な部下たちがいて。だから、どうか安らかに眠って欲しいと思った。もうこれ以上、何一つ彼が失わずにすむことだけを祈った。

静けさの中で、消えてしまった幽霊はどこに行ったのかを考えた。
多分、成仏したわけではないような気がしていた。彼は、彼のいるべきところに帰っていった。いつか、ばったり出くわす日があるかもしれない。
安らかな眠りも、現世で留まる願いも、どちらも等しく哀しいけれど愛おしいものなのだ。
誰も知らない。春だけが知っている罪とあやまち。
定期的に流れる三門市のニュースの向こう側にいるであろうソーイチのだいじな弟子がしあわせであればいいと願っていた。










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