Stranger in the Paradise;WT | ナノ
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07:呪いの言葉だっていいから、あなたの言葉ならいいから


(あなたがほんのすこしでも安心してくれたら良いのに。)



一人でいるのか怖かったはずなのに、春はのんきに今お茶を飲んでいる。
赤井の死と、その偽装の真実、疎外感と、おいてけぼりにされた現状が、不安定で仕方ないはずなのに。おいていかれるのには慣れている。慣れているけど、だからってそれが痛くないわけじゃない。
誰かの背中を見送るのが、大嫌いだった。


『 春さんがいてくれたら、俺はそれでいい 』


目の前に差し出された手が、きらきら光っていて、まぶしかった。待って、こんなの無理だ。まぶしくて目がつぶれる。真っ黒な組織とやりあって、薄暗がりには慣れているけど、こんなのには免疫がない。
おいて行かれるのは嫌いだが、それよりもっとずっと嫌いなのは『そばにいる』という約束だった。人生何が起こるかもわからない。約束なんて意味はない。約束したぶんだけ、おいて行かれたときにつらさが増す。苦しくて悲しくてたまらない。

迅と手をつなぐ。温かい、と思うけれど、同時になんだか違和感を感じる。これじゃない、という気になる。
そう言ったら、迅が「春さん、今トリオン体だからじゃない?」と言う。そうか、これは生身じゃないんだった。そう言われてみれば、そんなにお腹もすかないし、眠くなかった。あれこれ考えすぎていて、そういう当たり前のことも気にしていなかった。生身じゃない。目の前の迅はトリオン体なのかと問えば、違うと言った。
つないだ手の温度は、確かに温かい気がするけれど、分厚い手袋ごしのようなもどかしさがつきまとう。


「迅さんがトリオン体じゃないのって結構珍しいよ」と緑川と名乗った少年が言う。彼は迅が好きで好きでしようがないらしく、いつも『かっこいい迅さんの話』をしている。ふんふんと話を聞いては相槌を打っていると「飽きないっすか?」と太刀川の隊の出水が呆れたように口をはさんだ。飽きる。どうだろう。

「緑川君の話は聞いてて楽しい」

トリオン体は精神年齢にあわされているのか18歳の頃の春だ。なんで18だと分かるのかっていえば、単純に赤井が死んだ時期が高校3年だったからで。あとは髪が長かった。ボーダーの知り合いに見せられた写真の中にいる春の髪は高校当時よりも短くて、ていれが行き届いていた。中身と外見の齟齬はよくないとかで、大学生の春の服だって着れたけれど、高校時代の制服を着用するのが常になっている。帝丹高校のブレザーだ。初めにこれでボーダーを歩いていたらかなりピエロのように珍しがられた。
女子高生と女子大生。そんな違いもない気はするが。

「八嶋さんは八嶋さんだよね!」と緑川がしめくくる。そうか、と思う。未来の自分もこうして迅の話を聞いていたのか。迅はいつもトリオン体でいて、生身の時が少ないのに、最近は珍しいと緑川は首を傾げていた。


「お、春さんおつかれ〜」と迅がやってきて。
やっぱりキラキラまぶしい。目がちかちかする。自分のトリオン体やらの不具合なんじゃないだろうか。目から爆発したりしたらどうしよう。怖い。けれどそれを口に出せない。

「駿に捕まってた?」
「迅さんのかっこいい話10選を聞いてました」
「感想は?」
「全部がほんとならコナン君ばりにかっこいいなって思います」
「コナン?」
「知りませんか?江戸川コナン君。小学生だけど名探偵で、すごいんです」

迅は首を傾げた。知らないらしい。

「迅さんは今、生身ですか?」
「そうだけど?」
「トリオン体?っていうのでいることが多いんでしょう?緑川君が言ってました」

迅が笑う。笑って誤魔化そうとするあたり、ずるい。大事なことをはぐらかしている。

「それも何かの暗躍?ってやつですか?」
「春さんはどう思う?」
「・・・」

わからないから聞いているのだ。
差し出されたぼんちを一緒に食べる。お菓子を食べて、お茶を飲んで。平和だ。ボーダーはボーダーで結構大変らしいけど、そのあたりはまだよくわからない。
どうして、自分はボーダーを選ぶんだろうか。しばらくここで生活していると、居心地は悪くなく、むしろ快適だ。それでも。
赤井や降谷たちの傍を離れるほどかといえばそうでもない。きっと《あの人》が言ったように楽しく大学生活を謳歌して。
それでも卒業すれば、あちらへ戻るのが今の自分の率直な感覚だ。

「帰りたい?」

また迅が言う。

「・・・・」

数日一緒に過ごしているとYESと答えづらい質問になりつつあった。だから春は沈黙を選択した。迅もそうなるのはわかっていたらしく、さして表情に変化はない。

「・・・・このまま、忘れたまま能力も戻らないならここにいたって、戻ったって大した役には立てないですよ」

「ボーダーは人手不足だから、事務職増えるの大歓迎だよ。――実際、何で春さんがここにいるって選択したのかおれたちは知らない。いつのまにか、春さんは『ボーダー就職組』の一人になってた。事件の話は聞いた?」

頷いた。迅の言う『事件』とは、三門の警戒区域内で少女の遺体を発見した件だ。春の能力によって発見された。春にしてみれば、よくある事件の一つといえなくもない。世界には残酷な事件が溢れている。

「その事件以来風向きがよくなったのは確かだけど」

現場に連れて行ってもらったが、今の春にぴんと来るものはなかった。どこかで見たような気もするな、とは思った。どこだったか。思い出そうとすると、頭の中にもやがかかったようになり、思い出すのを邪魔される。


「・・・・ずっと、このままだったらどうしますか」
「前も言ったけど、どんな春さんでもおれは好きだよ」

忠告したのに、頑固な人だなと春は小さくためいきをついた。人を騙すにはまず自分を騙すを、ずたぼろになりながらやっているように見えた。痛くないのだろうか。心が悲鳴をあげてやいないだろうか。

「・・・・迅さんは私のことが好きなんですか」
「・・・・好きだよ」

一拍の間の後で、ニコリと迅が笑って言う。愛の告白にしてはあっさりとしているから本気なのか疑わしい。自分を痛めつけてばかりの人だ。
そこで、気が付いた。

「なんだ・・・・私、もう元に戻るのか」

迅がきょとんとしたが。だってそうだろう。
じっと迅を見た。数年後の自分は、赤井よりも、降谷よりも、工藤よりも彼を選ぶという事実を、客観的に観察する。煩いソーイチのこと、子供のころからちらちら見ていた顔。
それらを順繰りに思い出していく。

「で、今のことは全部忘れちゃうんですね、きっと」
「そう思う?」

迅は相変わらず食えない笑みを浮かべている。

「迅さんみたいなタイプが素直に自分のことしゃべるのは、きっとしゃべったって問題ないからでしょ?でなきゃ言いませんよ、好きとか・・・そんなの。暗躍が趣味だって聞きましたし」

隣に座る迅の肩が自分の肩とかすかにふれあう。
こうしていることも全部忘れるのだろうか。


「《今》の私は、迅さんのことが好きなんですかね」


そう言うと、迅くんは少し複雑そうな顔をした。実は付き合ってたりするのかな、と思ったのに、やはり違うらしい。迅の目がどうしてそう思うのかと聞きたそうにしていた。


「だって、ここにいる」
「三門に?」
「そう」
「でも、春さんはここじゃないどこかに行けるよ。そういう未来は腐るほどある」

どこかすねたような声だった。18の春から見ると、一つ上にあたる彼だけれど、どこか子供みたいに見えて、つい手がのびた。柔らかな茶色の髪に触れる。ぐしゃぐしゃと指先を髪にからませて撫ぜるのを、迅はされるがままになっている。

「たくさん視えると大変ですね」

何も知らない私に、こんな大事な情報を開示していていいのかと思うほどだった。未来を視るという。視えるのは便利だけれど、不便でもある。彼は、『今』の私がどこかに行ってしまうのを恐れている。くせのある髪を耳にかけてやるように、指先を動かす。

嫌いな言葉が唐突に口をついた。嫌いなのに。不思議とその言葉は自然と馴染んで、柔らかで、自分でも驚くほどに甘ったるく感じた。


「そばにいますよ」

言って、でもどこか違う気がして首をひねる。

「あー、違うな。」

迅の顔が固まっている。

迅は視えている未来が邪魔するのか、イマイチ春の発言を飲み込みきれないようだった。春だってそうだ。赤井の死が視えていた、それを怖れて一度は耐えきれなくさえなった。助けてくれる人がいなければ、ほんとうにすべてを投げ出していた。
未来はひとつじゃないし、視えているものが全てじゃない。視えていても、見間違えるのが人間だ。
赤井は生きていた。あの大嘘つきめ。大事な人をなくしたと、胸にぽっかり空いた穴は、その人が生きていたと知ったからといっても決して埋まったわけじゃない。
視えたものを解釈するのは自分自身だ。どんなに優秀な能力でも、そこには必ず自分というフィルターがかかる。



「そばにいたいんですよ、迅さんの」

君の傍に、ずっと。
きっと、未来の私、ここの、21歳の私はそう思ったんだろうと思う。
赤井と、降谷の反応は、彼らの知る『現在』の八嶋春を尊重したからだ。他にも色々な人に会ったけれど。迅だけだった。ふと気づいたら、視線で追いかけてしまう。気になってしまう。なんでだか、わからないけれど。中身は彼を知らないけれど、この器は彼をいつだって無意識に探している。

「どうだかなぁ」

迅が眉尻をさげた。

「未来の私は、きっと貴方を好きになる気がします」

「・・・・春さんには、そういう未来が視えた?」

「いや、全然」

かすかに期待した声音には申し訳ないが、特に何が視えたわけでもない。目を覚ましてから、何も視えない。何の夢も見ていない。ただ、そんな気がしただけだ。他人事のように言うと突っ込まれたが実際のところ他人事なのだ。自分が『迅悠一』に出会えるかどうかなんてわからない。人生はちょっとしたことでとんでもない方向に転がると言うと、迅がなんとも嫌そうな顔をして「どの未来でも会いにきてよ」と言う。

「私の絶対安全シェルターである秀兄のそばでも、美味しいごはんを食べさせてくれる降谷さんの傍でもなくて、なんか危なっかしそうな組織に片足つっこんでる時点で世界がひっくり返ってますからね。そして、そこにいるのは間違いなく迅さんがいるからですよ自信もってください」

「・・・・未来の旦那さんじゃなくて?」

少しだけ躊躇うように迅が口にした。旦那さん。はて、と思って自分の薬指を見た。見たって今の自分は高校生なのだし、今の自分の身体ではないから意味はない。薬指にはまだ何もはまっていないし、ふとした瞬間にみえる『赤い糸』もそこには視えなかった。

「旦那さん?」と聞きかえす。

「ボーダーの幹部になる人が、未来で待ってるんでしょ」

そこで思い至った。夢の話だ。
よく見る、夢。春を呼ぶ、春を請う、春だけが知る人。
顔も、声も、思い出せない。ただ、約束した。いつか会いに行くと、確かに。

「それって迅さんだったりしませんか?」

そう考えるとすごくしっくりくる。夢の中で、春を呼ぶ人。ふいに、初めての失恋を思い出した。この人だったらいいな、と思ってキスをして、でも違った。はつこいは、二重の意味で失恋した形になったのだ。本人に振られて、自分の能力でも違うのだと言われて。
迅の唇に自然と目が行きかけて慌ててはずす。

「俺にはそういう未来視えてないし、キス魔らしいけどおれには絶対にしてくんないし」

「・・・・視えるって大変だ」

視えるってほんとうに大変だ。春は思わず笑ってしまった。キスをしないのか、未来の自分は迅に。しないのではなく、できないんじゃないだろうか。また『違う』と思い知らされるのが怖いのでは?怖いということはそれはつまり、そうであったらいいなという期待の裏返しだ。

「迅さんに視えない未来を、今の私と見つけられたらいいですね」

「・・・・春さんさ、なんで今そんなこというの」

「弱ってるからです」

「弱ってるの?」

「だって、秀兄に手酷い裏切りを受けたし。あの人ほんと酷いですよね。実は生きてましたって。生きてたのは嬉しいけど、偽装に利用されたのはひたすらに腹が立つ。弱ってると、誰かに優しくしてあげたくなりません?」

もしも、この事件がなかったら。この胸の痛みがなければ。
三門には来ていなかったかもしれない。
世界中で起きる、あらゆる出来事は、いいことも悪いこともすべてが繋がって、作用しあって未来になる。18歳の、未来の成人した自分よりも幼い自分と、迅悠一が出会うことでも、きっと何かが変わるのかもしれない。いや、ただの《記憶》メモリーの再生にすぎないとしたら、意味はないのか。自分の弱さを、迅にしられてしまったことを21の自分は嫌がるかもしれない。考えても仕方ない。存在の定義なんて哲学的なことも、その証明も、今の春には意味はない。


「あと、今の私は迅さんより年下だし」
「関係あるのソレ」
「どっちかというと、年上には素直になれるタイプです。年下って、あんまり接点なかったですし」
「一歳でも?」
「学生服と、そうじゃない人の違いは大きい」
「年上の春さんもそうしてくれていいのに」
「それは元に戻った私に言ってください」

迅はひたすらに否定する。
どんだけ21歳の自分は彼の心をへし折っているんだ。我ながら少し呆れてしまう。弱ってるんだろうなと思う。今、優しくされると弱い。結構酷い言葉もなげたし、ずさんな扱いもしたのに、迅悠一という人はひたすらに春に優しかった。
何が彼は恐いのだろうか。何が未来の私は恐いのだろうか。
もっと自信をもてばいいのに、と思う。自分はどちらかといえば押しに弱いほうだし、迅の見た目は割とタイプのはずだ。じくじくと痛む傷をふさぎながら、一度塞いだ傷口のかさぶたをもう一度はがすのを自分は怖れているのかもしれない。一度綺麗に塞いで、なかったことにして、当たり前に笑っていて、それでも。まだ傷ができたばかりの自分だからこそ、するりと受け止められるものを、21歳の自分は受け止められないのでは?
春さんはキスしてくれない、と迅は言った。たぶん、つまりそういうことだ。


「・・・誰にも、『私』にも内緒にしときますから、弱音言っても大丈夫ですよ。どうせ、私はすぐに消えちゃうんですから」

すぐに『ユーイチ君の春さん』は帰ってくる。
視えていても、不安なんだろうか。

「・・・・・」

迅は口を開かない。難儀な人だな、と思った。

今の自分は果たして本当に過去の自分なのか。21歳の自分の記憶なのか。世界は不可思議な事態に満ち溢れている。だから、もしかしすると本当に18歳の自分は未来を覗いているのかもしれない。いいことも、わるいことも全部がつながる。
未来を覗いた自分と、今ここにいる未来を覗かなかった21歳の自分は既に別の世界軸に存在しているんじゃないだろうか。世界は不確定だ。迅も言っている。あらゆる可能性がある。いやだなぁ、と思った。もし、目を覚ました時に、これが全て夢だったら。
赤井は死んでいたら。
組織に負けてしまったら。
21歳の私は幸せものだ。18歳の私が不幸だなんていうつもりはないけれど。まだ未来はどうなるかなんてわからない。会えたらいいと思う。この人に。それは21歳のわたしじゃなく、18歳の、私の気持ちだ。

「・・・・・・春さんに、会いたい」とかすかな声が響いた。それが自分の鼓膜をゆらして、じんわりと体温があがった。どこかにいる『わたし』が呼応しているのか。いいなぁ、とまた思う自分に驚いた。たった数日一緒にいただけなのに。こんなにもどうして惹かれてしまうのか。

「すぐに会えますよ」

ゆるゆると、世界の輪郭がぼやけだした。
あ、この時間も終わるのかとぼんやりと理解していた。迅の手が、春の手を握っている。伏せられていた視線があがり、ゆっくりと、青い目が春を視た。
綺麗な色だ。
きっと未来の自分はこの人を好きになるに違いないと思った。自分自身を冷静な第三者として観察するというのは奇妙な感覚だった。ぐにゃり、と目の前の景色がゆがむ。

最後に見たのは迅悠一の、どこか困ったような笑みで、それから彼は、

――ありがと、春さん。

と、そうこぼれるように呟いた。
意識が薄れるなかで、唐突に腑に落ちた。なんだ、と気が付いてしまえば何のことはない。
『 ありがとう 』と言われるのが好きだった。いつからだったか、記憶は曖昧だったのに、ふいに思い出したのは、泣いている男の子だ。茶色の、柔らかな髪が揺れる。
いつか、またこの綺麗な青に会えるだろうか。
会えるとしたら、それは、確かに『未来』なんだろう。

感覚が遠ざかる最後の一瞬、迅の腕をとり身体を寄せて距離をつめた。
どうしてそうしたのか、自分でも衝動にまかせていたのでわからない。
迅悠一は大層驚いた顔をしていて、


綺麗な青が、溶けて、私の意識はぷつんと途切れた。
答えあわせはまだまだ、ずっと先になりそうだ。いつかこの青にまた出会えたら。
自分もこの危なげないけれど酷く魅力的な楽園にたどり着けるのかもしれない。


『 またな 』と、最上宗一の声がかすかに聞こえた気がした。

触れた唇のぬくもりすら、忘れてしまうのだとしたら。
いつか、また会う日にそれを思い出せたらいいと思った。










右側がずいぶんあたたかくて、浮上しつつある意識は本能的にそちらにすりよる。ぎゅう、と手が握りしめられる感覚に、これは湯たんぽなんかじゃないぞと気が付く。どこでも寝れるのは、そういう環境で育ったからだ。だというのに、そういう環境で一緒にいた人たちはそれを無防備が過ぎると叱るのは理不尽というものだ。
そもそも、安心のない場所で寝たりできないのだから。だからここは安全だったのだ。自分にとって。そう本能が判断したから寝れたのだ。
重たいまぶたをゆっくりと持ち上げると、一面に青が広がっていて、思わずあとずさった。ソファに阻まれて、少しも距離は取れなかったけれど。


「春さん?」
「・・・ユーイチ、君?」

名前を呼ぶと、ユーイチ君は眉尻を下げて笑った。なんだか少し顔が赤い。


「なに?どうかした?」
「・・・・・18歳の春さんに会ってた」
「へ?」
「トリガー、実験するのは今後は控えてね」
「あぁ〜、あれかぁ・・・・」

そうだった、実験に付き合っていたのだった。それが何でまた18歳の自分に迅が合うことになるのか。まったくトリガーってやつは未知の領域だ。18歳。ふと、気が付いた。18歳といっても、一口には言い切れないだけの出来事があの一年にはあった。


「・・・・・まさか、その、18歳?え、18って何月くらいの?」
「何月かで違う?」

目を細めたユーイチ君が興味深そうに聞く。

「いや、どうだろう・・・・ね、あの、私なにか変なこと言ってなかった?大丈夫?」
「・・・・内緒」
「えええええ!」
「でもさぁ、18歳の春さんはちょっとだけ、積極的だったよ」

意味深に迅が言うものだから、ますます私は焦ってしまう。なのに、どれだけ聞いても18の私が一体何をしゃべったのか、何をしたのか、結局ユーイチ君は教えてくれなかった。








「ねぇ、春さんゲームしよぉ?」と国近に言われてきょとんとしてしまう。ゲーム。差し出された端末を見て、それからもう一度国近の顔を見る。

「ええっと、私あんまりゲームとか得意じゃなくてね」
「え?」

国近が目を丸くした。そんなに驚かれるようなことを言っただろうか?と春は首を傾げる。

「へたくそでも大丈夫かな?」
「・・・・・このゲームやったことない?」
「ないなぁ」

大昔に、待機の暇つぶしにと手を出した掛けたことがあったが、うっかりデータをふっとばすミスをおかして以来、その手には触らせてもらったためしがない。お前は映画でも見てろ、とすげない扱いである。

「えぇぇ?」

国近がしきりに首をひねっている。

「どうかした?」
「・・・・んーん。なんでもなーい。教えるからやろ〜?」
「お手柔らかにお願いします」と春は真面目な顔で敬礼した。












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