SWAN LAKE BULLET:WT | ナノ
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開幕の鐘がなる


『番組の途中ですが、たった今はいったニュースです』


国際会議場の爆破がニュースに流れたのを街頭テレビで見た時、春は『安室透』に依頼された迷い猫を探していた。うろうろと、預かった猫の写真と愛用の玩具を持って。


『 明日は現場で事前チェックだ 』と、言っていた人たちの顔がじゅんぐりに頭の中をかけめぐった。立ち止まっていた春を道行く人々が邪魔そうによけていく。速報が終わり、通常のニュースが流れ始めてもなお、まだ春は立ち尽くしていた。番組の合間に公演中の『白鳥の湖』の宣伝が流れている。

警察関係者に死傷者が出たらしいというニュースが流れても、ほんのわずかも世界は止まらずに進んでいる。
携帯がなった。相手は降谷だ。無事だったことにほっと胸をなでおろす。連絡の中身としては事件現場には絶対に近づくなという警告だった。つい最近、うっかりシンクロが深すぎて一瞬心臓がとまりかけたところを見たせいか、降谷は春に危ない仕事をさせようとしない。
公安の内部情報で流れてきたものに、今回の爆破による殉職者のリストがあり、それに目を通す。春を阿笠宅まで送ってくれた若い刑事の名前があった。肩にかけた鞄がぐっと重みを増す。


「テロかな・・・なんか怖い・・・・・最近物騒な事件多いよね。ほら、こないだもどっかの遊園地で観覧車がさぁ」
「あったあった!観覧車が転がって来てた水族館わたしいたもん。ほんっと危機一髪だったわー。やなニュース多いよね」
「しばらくこのニュースばっかりになるじゃん、今日のドラマちゃんとやるかな」
「えー、だいじょうぶなんじゃない? あ、このCMまたやってるね。ほら『白鳥の湖』。おかーさんが見に行くって言ってた」
「すごい評判いいらしいよ。はくちょうっていえばさー、ほらアレ。もうすぐ帰ってくる奴」
「無人探査機? そういやもうすぐだっけ?」
「そうそう。このへんでも見えるらしいよ」
「テレビでやるんじゃない?」


街頭のざわめきの中で、ここしばらく自分のまわりにあった符牒に、気づけなかったことに、春は漸く気が付いた。――白鳥の湖は、悲劇だった。真実の愛が、すれ違う。愛は最後には勝つけれど、それには犠牲を伴うのだ。
《はくちょう》がかえってくるのが、5月1日。ならば、きっと今回の爆発は何かの事件の始まりなのかもしれない。
小さく、小さく、音楽が流れ続けている。細い糸のように。







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