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≫ ボーダー本部会議室 


「スポンサーが足りませんねぇ」

唐沢はため息をこぼした。会議室に集まった面々は、もう何度開かれてきたかもわからない会議の常連だ。城戸、忍田、林藤、鬼怒田、根付、唐沢、そして大人たちに混じって迅悠一がテーブルの席についている。


「こないだ一件、降りられちゃったのがいたかったよなぁ」

「仕方ありませんよ、どこも不景気ではありますし」

「まだ1年目の組織に、大金突っ込んでくれるとこもなかなかないんだよなぁ〜。うちに金出してくれるとこはギャンブラーも多い」

「今後、隊員はまだまだ増えるんですよ?! いえっ、増えてもらわないと!! とにかく最低限の設備をもっと増やして・・・・広報として隊員募集を今後もかけ続けて行くにしても施設の充実は大前提です」

隊員募集・増員を目下の一大目標として掲げているメディア対策室室長の意見は悲痛を極めている。出足こそ好調を維持しているが、大事なのはこれからなのだ。様子見をしていた連中の動きが、大きくなってくるのは間違いない。

「『唯我』を口説いてはいるんですけどね」

唯我は世界をまたにかけている大企業であり、その創業者一族の出身は三門市なのだ。地元企業にもっとも多くの息がかかっている。

「支援はしてくれていますが、中々全面バックアップまでは持ち込めなくて・・・あちらも中々慎重です。近々、息子さんを海外に進学させてあちらに拠点を動かすのではなんて噂もあるくらいですから」

「それはそれとして、こちらはどうしますか?」

外務営業部の唐沢は一通の招待状をデスクになげた。中身は既に全員に通知してある。

「・・・・・・これは任意なら丁重に辞退しては?」

時期尚早です、と根付は苦々しげに言う。

「ですが、あまりにも外へのドアを狭くしすぎると『鎖国』だの『独立武装国家』だなんて冷やかしがやまみませんし」

そうなると広報的にも印象が良くないでしょう?というのが唐沢の意見だ。林藤は隣の城戸を興味深そうに伺っている。一通の招待状。それは、この5月に開催されることが決まっている東京サミット前夜のパーティーへの招待だった。勿論メリットもある。各界の重要人物が集まる場だ、スポンサーを探すのにうってつけだ。だがデメリットもある。ボーダーは現状、世界中から針の目のような好奇に晒されている組織なのだ。下手をすれば鬼の首をとったかのように、介入を目論む有象無象は山のようにいる。


「あ、それ参加して」

重苦しい空気の中で発言したのは迅だった。

「会議にか」

城戸は腕を組みなおして、迅を見た。

「そう。そうした方がいいって、おれのサイドエフェクトがいってる」

迅の目が、じっと城戸を『視て』いる。会議の面々のなかでとりわけ若い迅の発言を、それでも無碍にするものは一人もいない。

「・・・・では唐沢さん」

「承知しました、手配しましょう。出席者は・・・城戸司令と私で考えてはいますが、ついでに誰かつれて行きますか?」

「東さん」と迅がすかさず口を出した。

「嫌がりそうですけどねえ」

「就職で逃げられなかっただけマシではありましたけど。次世代の育成はあらゆる方向に同時進行でやっていかないと・・・」

「東は最近、伸び悩んでいる所がありましたから。戦闘訓練とは違う空気をすってみるのは悪くないと思います」

忍田は同年代の隊員が少ない東をとりわけ気にかけていた。
あれこれと忍田たちが忙しくなってしまったせいか、新しく入ってきた隊員の育成その他を丸投げぎみになっている。気にかけての発言ではあるが、ある意味善意なので東にとっては厄介だろうな、と唐沢あたりは思っている。彼は聡い子で、賢い子で、そしてしたたかな子だ。是非とも今後のボーダーの一翼を担っていってほしい、というのが上層部の総意なのだ。

「東さんの説得はおれがやっとくからさ」と迅はどうにも東をその席に出したいようだった。代わりにいくつかのシフト調整をとりつけた。迅がわざわざ言い出すことの意味も、気にはなったが本人に口を開く気が無ければどうにもならない。

開催場所を首都圏だ。城戸はそれを確認すると、小さく息をついた。
世界規模のイベントだ、当然城戸がかつて所属していた『古巣』が動いているのは間違いない。懐かしい顔に見つからなければいいと、誰にも気づかれない程度に城戸はその招待状を眺めていた。










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