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かくて一つの舞台の幕は下り


ポアロを出たところで、誰かにぶつかる。

「あ、春ねーちゃん」

江戸川コナン少年だ。ほっぺたに絆創膏をつけている。

「こないだは花火綺麗だったね」と言うと「春ねーちゃんの言うとおりだったよ」と眼鏡の奥の青い目をげんなりさせて肩をすくめた。小学生らしからぬ仕草であるが、彼がやると不仕事様になるのだから、今から将来が恐ろしい。

「シートベルトは大事だった・・・・あの人の運転頭おかしいんじゃない?」と可愛らしい声でえぐいことを言う。事実なのでしょうがないが。
阿笠のところから帰ってきたらしい彼は「ニュース見た?」と聞いた。
国際会議場爆破に端を発した連続事件の顛末は、これからしばらくはワイドショーを騒がすだろう。

『《犯罪の手引書》のような警察の捜査資料に感化された――そんな異常な動機で一連のテロを起こした元検察官、日下部誠容疑者に対し、警視庁は余罪を含め、さらなる取り調べをすると発表しました』

どのニュースでもあらたかそんなことが報じられていて、公安の「こ」の字も出てこない。公安も、その協力者の存在も決して表に出ることなく、事件は処理される。

「日下部さんの気持ちも、わかんなくもない」と春が言えばぎょっとしたようにコナンが春を見上げた。だってそうだろう。酷い嘘だ。死んだふりなんて。あてこするように続けると、コナンは気まずそうに顔をそらした。それでも「春ねーちゃんは、あんなことしないでしょ」と言う。
しない、ではなくできないが正解かもしれない。日下部のやったことは許されないことだ。それでも。彼を壊してしまうことになったのは《公安》の罪でもあるのだ。そしてそのカタをつけ、罪を背負い彼らは明日もまた事件にまい進していく。公安警察としての『この国を守るのだ』というプライドにかけて。理屈としては同じことだ。

「この間、安室さんに『付き合ってる人いないの?』って聞いたんだけど、なんてこたえたかわかる?」

なんてませたこと聞くんだこの子。いやこの少年の毛利蘭への献身は愛だ。愛に年齢は関係ないのかもしれない。それにこの子は結構複雑だ。触れるたびに何故だか、過去よりもずっと未来が視える。帝丹高校の制服を着た眼鏡をかけていない、まるでどこかで見たことのある高校生探偵にそっくりだが、そのあたりはあまり深く考えないようにしている。
呆れかえっている少年に笑ってしまった。降谷のどや顔が目にうかぶようだった。あの人はあれを素でやっているから恐ろしい。

「『僕の恋人は、この国さ』だよ」
「・・・・・・・想定を上回る回答に私もびっくり」
「本気で言ってそうなのがね・・・」
「本気なんだよ」

顔を見合わせて笑いあった。

「コナンくんに、大けがなくて良かったよ」

「どこか行くの?」

「うん。お迎えきてるから」

「沖矢さんが寂しがってたよ?」

わざとらしいほどの猫なで声だ。まったく、この子はほんとに食えない。

「私は前もっと寂しかったし、多少はね」と返すと、グッと詰まったように言葉を飲み込んだ。
ポケットの中でスマホが鳴っている。早く来いとの催促だろう。春はコナンの頭をぽんと撫でると走り出した。

「きをつけてね!」と後ろから声がして、春は後ろ手に手をふりながら自分の袖にくっつけられていた盗聴器をコナンに投げ返した。
まったく、油断のならない少年だ。

急かされるように乗り込んだ車のラジオから《はくちょう》の帰還のニュースが流れている。

「春」
「なんですかー」

運転席に座る降谷が振り返り、何かを握っている手を差し出した。さっきまでの『安室さん』の顔とは違う、『公安』の降谷の顔だ。

「・・・・?」

なんだろう、と首を傾げつつ手を差し出した。

「依頼人からのお礼だそうだ」

掌におちてきたのは、綺麗な青い青いリボンだった。
かすかに、遠くで何かのメロディが聞こえた気がしたけれど、キーを回し発射する車のエンジン音にまぎれてしまって、なんだったのかはわからない。

「ラッキーカラーは青だと言っていた」
「え、誰がですか?」
「今日の朝の占い」
「・・・・・あそこの占い当たらないですよ」


掌の上の青を、指先でなぞった。
目を閉じ耳をすませてみる。
もう《白鳥の湖》は聞こえない。
一つの幕がおりて息をついていても、またすぐに次の幕が上がるが、とりあえず今は何も聞こえない。








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