SWAN LAKE BULLET:WT | ナノ
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死人を蘇らせる


「そろそろ諦めたらどうだ」

肩身の狭い喫煙者は『沖矢さん』の車でも吸えないせいで、少しばかり不満そうだ。

「うーん」

「しかし都内中心部を出ていたのは運が良かったな。おかげで車のナビも無事だ」

「IoTテロ?だっけ。さっき公安のデータベースにこっそりアクセスしてみたけど、これで毛利さんの容疑もはれるね」

メロディーがクライマックスに近づいていく。ずっとなりっぱなしのクラシックが煩くてしょうがない。
公園で猫は無事に見つけることができた。それからすぐに都内に引き返そうとしたのだが、引き返そうとするたびに音が大音量になって隣にいる赤井と会話もままならなくなる。仕方なしにそのあたりを音が静かに聞こえる方へと車を走らせていた。勿論、赤井には何も聞こえていないから、耳をそばだてている春を興味深そうに眺めていた。後部座席の下に置かれたケージの中で猫がにゃおんと鳴いた。随分と遠くまでやってきたものだ。好奇心は猫をも殺すというが、この猫は好奇心が強すぎて家にすら戻れなくなっていた。

「あ、次は左に」

「了解した」

もはや沖矢さんごっこをするつもりもないらしい。あたりを見渡しながら、スマホをいじる。警視庁のデータ。加えて風見の発言が気になってから、一年前の事件についても資料を会澤に融通してもらった。

《 NAZU不正アクセス事件 》

この資料を手に入れてからだ。音楽がなりやまない。
風見の主張する『降谷零が自殺に追い込んだ』人物――、その顔写真を見ていた。
スマホがけたたましくなりだした。


「あれ、降谷さん?」

どうしたの?と言うよりも早く、通話の相手はしゃべりだした。


『今から言う場所に行け!』

「はい?」

『別件で動いている会澤さんが調べた。お前が一番近い』

「近い?何に?」

『 "羽場二三一" 』

降谷が口にしたそれは、死人の名前だった。





***




羽場二三一を、阿笠亭まで連れてこい、と言うだけ言って降谷は通話を切った。通話終了直後にGPSがマークされた地図がスマホに送られてくる。
春は言われるがままに、そこに向かった。赤井は、面白そうに笑っていた。この笑い方は『沖矢さん』失格だったが、もうそれどころではない。

――シートベルトはしっかりね。

そうコナンに告げた日のことを思い出す。地獄のドライブ。それが今まさに春の元でも始まろうとしていた。羽場のことはすぐに見つかった。音が、大きい方に行けばいいのだ。なんで死んだはずの人が生きてるんだとか細かいことは考えている余裕はなく、降谷からの指示だと告げて。三人と一匹は、阿笠亭へと向かった。
道中で、誰も引かずに済んだのは僥倖にちがいない。指定された時刻に間に合うとは・・・・と春は生きてドライブを終えれたことに胸をなでおろす。

地獄のドライブで絶叫しながらも考えていた。
羽場二三一の生存の意味。そして今回の事件の全容。降谷と通話が途中でつながって、絶叫するように会話していた。

『検察』

『協力者』

『死亡偽装』

『《ロミオとジュリエット》』

『日下部さん』

『境子』

いくつかのワードがひとつのつながりになる。


『《はくちょう》』


はくちょうが落ちる。警視庁に。回避するためのアクセスコードが書き換えられている。
そう説明を受けて、クライマックスを迎えたメロディはパチンときれた。



( すれ違いと、悲劇だ )


すれ違って、すれ違って、とんでもない場所へとたどり着いてしまった。
博士の指示で少年探偵団がドローンを起動する。沖矢は灰原のことを気にしたのか車に残っている。以前困ったことがあれば連絡を、と渡されていた橘境子へ『警視庁に』と一言だけメールを入れた。風見が連絡を取っているかもしれないが念のためだ。
博士に羽場のことを頼んで、それで春にできそうなことは終わりだった。


『にゃあ』と言う猫の鳴き声がした気がして振り返る。窓の外に、ふわりと何かが揺れた。青いリボンだ。『安室さん』の仕事の肩代わりの最後の仕事がまだ残っていたのを思い出す。雌猫のキティちゃんは見つかった。最後の一匹。

茶色い毛並みの『ゆーいちくん』。青いリボンがついた首輪をしているのが目印だ。鞄に入っている『ゆーいちくん』愛用の鼠の玩具を握りしめた。普段ならば、過去をたどって範囲を絞っていく。だが、どうにも胸騒ぎがした。目を閉じ、最初に見えたのは闇夜に浮かぶ花火と、それに照らし出されるカジノタワーだ。花火大会の予定はしばらくない。
ならあれは。
春は赤井のまつ車へと駆けだした。










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