SWAN LAKE BULLET:WT | ナノ
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人殺しは誰だ


あの人は、人殺しだ。
風見は降谷をさしてそう言った。降谷零が人殺し。
春は小さく笑った。
《人殺し》はどこにだっている。
降谷零が《人殺し》なら、八嶋春もまた確かに《人殺し》だ。
いくつの命を取りこぼしたのか、数え切れない。
未来は毒だ。
最善を尽くそうとすればするだけ、失敗する。
そして次第に一歩も動けなくなり、息することもままならない。
大きな手が春の目を覆う。その手に与えられたものだけを『視て』、その手に必要なものだけを返す。
甘やかされた自分を、許さなくては、誰を生かすよりもまず自分が生かせなくなっていた。

人殺しの自分を知っている。
屍の上に立っている。
自分にとって、大切な人のためにならどんなつらい未来だって血を吐いてでも視た。
自分にとって、さして親しくない人のつらい未来に目をそむけた。
自分が生きていくために。




夢を見た。
机に向かっている自分は、使い古された参考書を睨みつけている。後ろからアドバイスの声がする。振り返ると、少しだけしかめっつらをした人が『こんな成績の人間が公安内部協力者だなんて許しがたい。それで大学が受かると思うのか』と小言をこぼす。
お前のためじゃない、公安のメンツの問題だと言い捨てて、ペンをとる。間違っている箇所に赤字で訂正を入れていく。
わかりやすい解法に、次の問題は解けそうな気がした。そう言うと、男は少しだけ笑った。

景色がゆがむ。
ぐにゃりと、顔がつぶれて。ぱちんと電気を消したように、あたりが真っ暗になった。
すると暗闇に仄暗い焔がともる。
手元に残された一冊の参考書が燃えているのを、必死になんとかしようとするのに、炎の勢いは止まらない。紙は灰となり、そしてあたりは真っ暗な闇になる。
白鳥の湖が静かに流れている。


『わたしのせいだ』

暗がりに、自分の声が響く。

――うぬぼれるなよ。

誰かの声がそれにこたえる。

『わたしがきづけなかったせいで』

――そんなわけあるか、ふざけるな。

『でも、』


火傷の痕がじくりと痛む。足元が崩れ落ち、過去がフラッシュバックする。
ひきつったような痛みが、じくじくと春を苛む。爆発音、そして瓦礫の崩れる音、悲鳴。
それらがごちゃまぜになっているのに、語りかけてくる声はやけにクリアに届く。瓦礫の山を必死でさぐる。早く見つけて、早く助けなくてはと。


――学生は、勉強してろ。

『やまもとさん』


名前を呼んだ。
一番大きな瓦礫をどけ手を伸ばすと、そこにいたのはスーツの公安刑事ではなく青いリボンをした猫だった。にゃあと猫が、かぼそい鳴き声をあげた。
おとなになりたい言うくせに、おとなのやさしさに甘えている。誰かの手が、また春の視界をそっと覆った。











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