SWAN LAKE BULLET:WT | ナノ
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コストコにて



「と、いうことがあったんですけど風見さん心当たりは?」

警視庁内部にある一室で仕事をこなす風見を、横目に春は椅子に腰かけた。勝手知ったる場所である。

「何の話だ」
「いまさらとぼけなくても」
「降谷さんに頼まれている仕事は終わったのか」
「もうちょっと。それより、なんだか先生の様子が気になるんですよ。ねぇ風見さん、私の勘を信じてくれませんか?」

風見はメガネを持ち上げて、深々とため息をつく。

「彼女はいつもどおりだ」
「前からあんな感じの相手をわざわざ協力者に? 公安の目的と違う感じに動いてるのは何か意味があるんですかね・・・・まるで毛利さんの起訴を望んでいるみたいな発言が多くてコナン君が怪しんでましたよ」
「・・・・・・さっき会った」

公安のオーダーは毛利小五郎の『無罪』だ。だが橘境子の弁護はどうにも歯切れがよくない。まるで有罪になってもしかたないかのように投げやりだ。

「・・・・大人には色々と事情がある。お前もあの子のような子供じみたことを言って大人を困らせるな」
「そうやって私を蚊帳の外におかないでください。っていうかあの子ってだれです」
「毛利探偵のところにいただろう。眼鏡の少年が」
「・・・・・子供、じみた?」

最後の発言は嫌に違和感があった。江戸川コナン少年は、小学一年生だがおおよその人間は「小学生らしからぬ」と彼を評する。彼が『こどもじみた』真似をするときは大抵何か目的があるのだ。風見のスマホが鳴る。端末を確認すると、相手は降谷だったらしい。

「はい、風見――え、いや、・・・・は? まっ、」

唐突にかかってきて、唐突に切られた通話に風見が頭を抱えた。眉間のしわがますます深くなる。どんまい風見さん、と肩をぽんと叩く。

「今からコス○コに来いと・・・・」
「ああ。ポアロの買い出しがあるってこないだ言ってましたね」
「・・・・・・・」

風見が黙り込む。

「何か問題があるんですか? ここからならすぐ出た方が、」
「八嶋、君はコス○コに行ったことがあるか」

真剣な顔で聞かれる。

「こないだ行きましたよ。『沖矢さん』が料理に凝ってて、買い物に蘭ちゃんたちと付き合ったんです」

「出るぞ」

風見が立ち上がる。春としてはもう少し資料を読み込んでいきたかった。以前、風見が作ってくれた警視庁の滞在者訪問者の出来うる限りのリストが数ページにわたってある。以前から何度かチェックはしていたが、もう一度見直そうと風見の横で読んでいた。

「あー」

そこで気が付いた。なるほど、風見とコ○トコはあまり想像できない。この人は食事に関して言えば割と雑でチョコとかコンビニ飯で済ませてしまうタイプだ。公安刑事のファーストインプレッションが降谷だったので忘れていた。

「もしや私の会員カードがお目当てで?」
「なんでも買ってやるから」
「公安ですって言えばいいのに」
「悪戯に民間で不安をあおるようなことはしない」
「こないだの観覧車は?」
「あれも最大限配慮はした」

なるほど、コス○コ貸切計画とかを立てるつもりはないらしい。







春の同行者として店内に入った風見はさっさと春を取り残して行ってしまう。天井まで商品がうずたかく積まれ、日本人サイズでは明らかにない棚の高さだ。こっそり会うにも、死角が多い分最適と言えば最適だ。が、まぁ単純に『安室さん』の予定に付き合わされただけなのかもしれない。ポアロの店員である榎本梓が『安室さん』から離れて別の棚へと駆けていく。その隙を見計らって接触をする二人をよそに、ため息交じりにひとりでショッピングカートを押していると、最近よく見かけるもう一人の眼鏡男が近くでにこやかに買い物をしていた。

「こんにちわ、沖矢さん。お買い物ですか」
「こんにちわ、春さん」

にこやかな挨拶に鳥肌が立つ。

「随分と高い肉を入れてますねぇ」と沖矢が春のカートを覗き込んで目を細めた。
「今度少年探偵団の子たちとBBQでもしようかなと思って」
「それはそれは。お相伴にあずからないと」
「・・・・ずいぶんたくさんスパイス買うんですね」
「カレーを作ろうと思いまして」
「・・・・・ルーで作ればいいのに。そうだなぁ、バー○ントとか」
「ジャ○なら家にあったんですけど、丁度コ○トコ来たことですし挑戦してみようかなと」

しらじらしい会話をしながら実はこっそり風見にくっつけた盗聴器の音声を耳につけたイヤホンで聞いている。

『自ら行った違法な作業は、自らカタをつける。 それが公安だからな』

ノイズが混じっているので、もしかしたら盗聴器は一つじゃないのかもしれない。為になる言葉だ。現在進行形の違法な作業で盗聴をしている春は、きっちり盗聴器を回収しようと心に刻む。

「コナン君を外で見かけましたよ」

にこり、と眼鏡の奥の目を細めて笑う沖矢さん。なるほど、と納得した。
自分のしかけたぶんは後で回収をする予定だが、さてコナン少年の方はどうするか。そもそもどこに仕掛けたのかわからないから、下手に回収しようとすると不振がられる。かといって『盗聴器ついてますよ』と忠告すれば、気が付いた経緯の説明の過程で自分も叱られる羽目になる。

「・・・・・あー、今のは聞かなかったことにしとく」

アメリカ時代に映画のおともでよく食べていたスナック菓子の特大サイズをカートに放り込んだ。したり顔した大学院生が「体によくありませんよ」と言うのはほんとにちょっとどうかと思う。
雑な食生活は誰の影響だと思ってるんだろう。
風見が目的を果たしてこちらに向かってくる。さらりと「では」と沖矢がさっていく。風見は気付いていないようだった。それで大丈夫か公安刑事さん、と思ったが口にはださない。
カートの中に放り込まれたものの量に、風見が露骨に嫌そうな顔をするが、まぁお菓子のいくつかは公安の詰所に差し入れにするつもりなんだから許してもらおう。
ふと店員がスーツを着た風見と、春を不審そうに見ている。これはまずい。春はにっこり笑って公安刑事の御身分がばれないように、公安刑事がうっかり援助交際の汚名を着せられてしまわないように気を利かせた。

「じゃ、会計はよろしく『おにーちゃん』」

ことさらにあかるく、風見の腕を捕まえて。『妹』役には定評があるので、結構うまくやったと思う。風見は眼鏡をかけなおしてぽつりと「こんな妹は嫌だ・・・」と言った。まったく失礼な話である。
店員さんは露骨な演技に納得してくれたのか、「いいお兄さんですねー」といった生暖かいまなざしでレジをすませてくれた。
これは後々「春ねーちゃんって風見刑事となかよしなんだね」とコナン少年にあてこすられたのだが、いかんせん『なかよし』に至った経緯を話すと少年はピタリと貝のように口を閉じた。そうでしょうとも。あんなにもえぐい作戦の企画立案者が小学生と知った時の私の気持ちを考えてみてほしい。







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