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逮捕


依頼されていた犬の散歩をこなし、そのまま迷い猫2匹の捜索を終えて沖矢昴の車で探偵事務所の近くまで送ってもらった春は丁度、公安刑事が毛利を逮捕しにやってきていたところに出くわした。
蘭の様子が心配だったのだ。

「新一、助けて! お父さんが逮捕されちゃう!」

風見は春には一瞥もよこさない。

「押収した貴方のパソコンから出てきましたよ。サミットの予定表、それから爆破された国際会議場の見取り図です」

次々と示される証拠の書類に、毛利は目を見開いた。よくこの短時間で仕込んだな・・・と春は公安の仕事の速さにおののいた。

「嘘です! 父はそんな資料をパソコンに保存なんかできません」

園子に付き添われている蘭が必死に父親を弁護している。その通りなのだ。できない、と胸を張るのもどうかと思うほどに、毛利が機械音痴なのは春も知っている。「その通り、できません!!」だが公安にとってそれは何の関係もない。
コナンが部屋に飛び込んできた。風見をとっさにスマホで撮っている。

「とにかく。詳しい話は警察で聞きます」

「ふざけるな!」

毛利が反発するように、抵抗する。抵抗を公務執行妨害と称して風見はポケットから手錠を取り出し逮捕時刻を腕時計で読み上げながらはめた。

蘭の顔は蒼白だった。
コナンが必死に、なにか打開策を見出そうとしたが、結局引きとどめることはかなわなかった。事務所をコナンが飛び出していく。
蘭の傍には園子がいた。春は、小さな背中を追いかけた。

事務所下の喫茶ポアロの前で、少年は憤然と箒を持って掃除をしている男を睨み据えている。右頬に、大きな絆創膏が貼られている。

「なんでこんなことするんだ!!!」

コナンが叫ぶ。

「・・・・・僕には、命に代えても守らなくてはならないものがあるからさ」

『安室透』の顔をした、降谷零はコナンに背を向けて言うと、ポアロの中へと戻っていった。その背中を茫然とコナンは見送っていた。

振り返ったコナンは、追いかけてきていた春に漸く気づいたらしくきっと視線をあげた。

「これでも、まだ春ねーちゃんはあの人たちを信じてるの」

静かな怒りを秘めた声音を小学生が出せるものなのか。

「うん」

頷いて、しゃがみ込み視線をあわせた。
コナンの、青い目に自分がうつりこんでいる。


「ごめんね、コナン君」
「どうして春ねーちゃんが謝るの」
「どうしてかな」


言えるはずもない。ちゃんと、もっと、自分が視ていたら。それに気が付けていたら。そしたらこんなことにはならなかったのじゃないか。出来損ないの自分に、不釣り合いな能力をもてあましている。
やくたたず。自分をなじる声がする。誰も言わない。降谷も、赤井も、そんなことは絶対に。でも誰に言われなくても、自分自身が一番自分を罵倒している。
何度も、何度も、何度も。







コナンとわかれて、春はポアロに入った。店内では『安室さん』がにこやかに常連客と会話をしている。
窓際のボックス席に座ると鞄から取り出したのは『おしごとカード』だ。いくつか終わった仕事をリングから外して、残っている仕事のどれを次にこなそうかと考える。

「ご注文は?」
「安室さんが作るのでいちばん楽なのを」
「楽なの?」

少しも疲れを感じさせない笑顔だ。先ほどまでの鋭ささえ、見せない。

「で、それ一緒に食べてください。一人ご飯寂しいんです」
「接客中なんですけどねえ」
「さっき、最後のお客さんが会計してたでしょう? 次のお客さん来るまで。わたし、お昼からなんにもたべてないんです。今、食べなきゃこのまま何も食べずに寝ると思うんですよね、不健康だと思いませんか」

座ったまま、席の傍にたつ『安室さん』をじっと見上げた。春に三度三度の食事の大切さを説いたのは他ならぬこの男なのだ。

「安室さん、おねがいです」

「・・・・・サンドイッチとコーヒーとサラダで?」

「はい」

次の客が来るまでですよ、と折れてくれた。しばらくするとボックス席の向かい側に、降谷が座る。机の上には注文の品が並んでいる。両手を合わせて「いただきます」と丁寧な所作を降谷がするから、手にしていたカードを鞄に放り投げて春も続いた。

「仕事は順調か」

口調が変わる。

「まぁまぁかな」

切り替え上手の人たち相手に、いつも面食らう。慣れずにあたふたしているのは自分だけだと思うと、何とも情けない話だ。
サンドイッチを頬張る。おいしい。空っぽになりかけていたお腹がじわじわ満たされていく。空腹は、思考を停止させる、と降谷は食事に関しては赤井よりもはるかにこだわる人だ。とりあえず食事できればいいとファストフード中心だった過去の生活は、降谷出会ってからというもの激変している。

「ポアロの後は『探偵のおしごと』ですか?」
「そうだな。丁度いい休憩になったよ」
「お客さん、きませんね。もうちょいのんびりできそうで良かった」
「春」
「はい?」
「表の『準備中』の札はこれを食べ終えたら元に戻すからな」
「・・・・・・」

入店の際に表に札をひっかけてきたのは、最初からばれていたらしい。










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