背中合わせの二人;BBB | ナノ
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血界の眷属との交戦におけるレオナルドの役割は、その義眼によって真名を読み取るところにある。ゆえに、その役割を果たした次の瞬間レオナルドにもとめられるのはその場からの速やかな撤退である。
真名をクラウスに伝えてから、封印が完了するまでの数秒間。そこを生き延びるのは至難の技だったりするのだ。そして、今日もレオナルドは死線を彷徨う。

その日の舞台はかつてアリギュラを誘い込んだ旧パークアベニューだった。戦いの中心から離れようとした。クラウスの封印がまさに施されようとする一瞬に、放たれた血の弓が、ライブラの戦闘メンバーを掻い潜りレオナルドへとまっすぐに向かっていた。
間に合わない、見えてはいてもかわす力のない自分を冷静にレオナルドは分析していた。間に合わない。ザップの血が、スティーブンの氷が、K.Kの銃弾が、クラウスの拳がすべて遠過ぎた。

「少年っ!!」

誰かが名前を呼んだ。少年、レオナルドにそんな呼び方をするのはそう多くないから、その声の持ち主が誰かは顔を見なくてもすぐにわかった。
ポリスーツの腕がレオナルドの体をさらう。量産された機体が、しなやかになめらかに、まるで人のように動く。

「ハルさん!!」

血の弓矢はポリスーツのボディをかすめていく。衝撃が伝わってきた。

「あぁっ!くそったれ!また始末書!!」

叫ぶような声が聞こえて、ははっとレオナルドは乾いた笑いを思わずもらした。生きている。寸前、あ、これはダメだと思ってしまったせいか腰が抜けてしまって立ち上がれる気が全くしない。

「大丈夫、少年?生きてる?」
「な、なんとか無事っす」
「骨折とかない?ポリスーツって力加減うまくきかないから」
「大丈夫っすよ、ありがとうございました」
「お礼言われるほどのことでもないわよ、それにしてもこの破壊力!毎度ながら嫌になるわね」

ハルが降りたばかりのポリスーツを叩いた。

「新素材使った新機体が一瞬でおしゃかだわ」
「すすすすんませんっ」
「え?いやいや少年のせいじゃないわ。かわしきれない私の腕が悪いだけ。あと機体が脆いのが悪いわよね。」

腰の抜けたレオナルドへハルが手を差し伸べた。その手をとって、
よろよろと起き上がる。瓦礫の向こうからライブラの仲間たちが血相を変えてやってくるのが見えた。

「目、腫れてる。」

まなじりを細い指が撫でた。汗と香水の匂いが鼻先をかすめていき、レオナルドは思わず顔を赤くした。

「ちゃんと冷やした方がいいわ。君のとこの氷男にでも頼んで、ね」

悪戯っぽくハルがウィンクした。

「それじゃ、気をつけていくのよ少年。私は後始末に行かなきゃ。」

そのままぽんと頭を撫でる。既視感。どこでだか、よく同じことをされた記憶がよぎった。

去っていく背中をぼんやり見送っているとスティーブンとクラウスがレオナルドの無事を確認しにやってきた。ハルに助けられたことを聞くやいなや、がしがしと頭を撫でられた。ああ、と気づく。

「よくやった少年、あとはこっちでやるよ」

少しくたびれたスーツが、ハルとは反対方向へと向かう。
レオナルドはおかしくなって、笑った。何笑ってんだとザップがレオナルドの頭を叩くのをいなしながら、二つの背中を思い比べた。

ーー少年。

そう言って、二人はレオナルドを子供扱いしては甘やかすのだ。為すべきことは為せと、厳しくしながら、それ以外のところで驚くほどに。もう、少年と、呼ばれる域は超えつつあるのに。

向かうの先は違うのに、歩調はぴたりとそろっていた二人の大人が作ってくれた休息の時をレオナルドは甘受する。布団の中で、冷やしたタオルを目に当てながらまだまだ眠ることができないだろう彼らを思う。

そうだ、明日は何か差し入れでもしよう。徹夜あけによさそうなものをつめこんで。









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