背中合わせの二人;BBB | ナノ
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13


「何だよソレは」
不機嫌な声の男に肩をつかまれた。振り返らなくても誰かはわかった。本人に告げたことはないが(調子に乗せるだけだからだ)ハルはスティーブンの声は気に入っている。
「何の話?」
振り返ると紅茶色の瞳(割とこれも気に入っている)が剣呑な色を宿してハルをにらみつけている。
「首筋、見えてる」
長い指(これもうらやましいものだ女の手はいつだって小さすぎる)が、首筋をなぞる。そこで男が何を指して『ソレ』と言っているのかを理解した。
「キスマークね」
「・・・・・君は今フリーのはずだろ」
「アイスマンは遊んでる割にロマンチストなの?一夜のお遊びくらいするわよ、私も」
そこまで貞淑な女というわけでもない。ひと肌の恋しい夜だって人並みにある。いったい何をそんなに怒ることがあるというのか。
「でも確かに碌な男じゃなかったわね」
痕はつけるな、と言ったはずだ。自分では気づきにくいところだったから、指摘されなければ気づかなかっただろう。
「僕を呼べばいい」
「は?」
「一人が嫌なら、僕を呼べばいい」
「ここ、ときめくとこかしら」
「ときめいといてくれよ」
「難しい要求だわ」
まっすぐに男に向かい合う。
「今度は何をたくらんでるのアイスマン」
「友人として心配してるだけだよ」
「友人・・・・? だれと、だれが?」
「君と、僕が」
反論しようとした口を、指先で封じられた。友達だろ?と無言の圧力をひしひしと感じた。男の顔がそのまま、ゆっくりと首筋によって来る。
「何をしようとしてるの”マイ・フレンド”」
皮肉たっぷりに呼びかける。空いた手でゴツリと相手の腹へと銃口をつきつけた。こんなもの程度でなんとかできる男でもないのだが。
「消毒」
「友人はそんなことしないわよ」
「・・・・・ワンナイトスタンドの相手が許されることなら、友人の僕だって許されてしかるべきだ」
「なるほど、あんたはミスタ・ライブラに対してもそんなことをするわけね・・・・って、ちょっと!舐めるな!」
べろりと、生暖かい感触が首筋を撫でていくのを追い払う。
「友人というより」
ハンカチで首筋を丁寧にぬぐう。冷えた視線でにらみつけてやった。
「さかりのついた野良犬に襲われた気分なんだけど」
スマートでかっこいいっすよね、というレオナルド少年のスティーブン評が頭をよぎった。彼はこの男をいささか過大評価しすぎである。スマートでかっこいい、そういう男であるだけならハルはもっと心おきなくこの男を無視できたのだ。
どうにも、スティーブン・A・スターフェイズという男は自分に対して子供じみた振る舞いをする。それがどうにも危うく見えて、口を思わず出してしまうのだ。
「私は、」
ハンカチを懐に戻してから、少しふてくされた男ときちんと向かい合う。
「友人をワンナイトスタンドの相手には選ばないわ」
視線が混じる。目を見開いて、きょとんとした男はやはりどこか幼く見えた。その瞳に喜色がともった。
「――友人、友人ね」と満足げに男は繰り返した。

「僕はさ、友人とはディナーを一緒にしたい主義なんだよ。親しい連中が集まってパーティーとか」
「友人としては大変いかんだけれど、私はそういうのが大嫌いよ」
「こないだダイナーのパーティー出てたじゃないか」
「あれは例外。実家みたいなものだもの」
「仕方ない、二人きりでゆっくり食事行くかい」
「あ、仕事だわ」
「友人として、手をかそうか?」

にやりとスティーブンが笑う。『Your Friend』というフレーズをどうにも気に入ったらしい。かつかつ、と革靴を鳴らす男に「結構よ」と断りをいれる。警察のお仕事に首をつっこませるつもりはないのだ。

「あんたはあんたの仕事があるでしょ、アイスマン」
「スティーヴィーって呼んでくれてもいいんだぜ?」
「仕事しろって言ってるのよ、ステファニーちゃん」
「・・・・・・待って、ちょっと、え、その話はどこから?なんでだ?君がどうして知ってる?!」
「口の軽い部下を順番に思い浮かべてみて」
「・・・・・・ザァップ!!!」

スティーブンが頭をかかえた。

「ステファニーとならゆっくり飲みたいわね」
「・・・・・・君をハリーって呼んでいいのなら、考えよう」
「・・・・ちょっと、捨て身がすぎるわよ?けど、悩むわね・・・ステファニーすっごく可愛かったから」
「ステファニーなら今晩空いてる」

なりふり構わないこの姿勢は果たしてスマートでかっこいいか?首をひねる。レオナルド少年にも見せたい姿だが、少年の抱く憧れと言うやつを自らの手でぶちこわすのも気が引ける。現実というものを見間違えるタイプでも彼はないのだが。
ため息をつく。

「そもそも、どうやって彼女を呼ぶのよ。あれは堕落王のお遊びでしょう?」
「何とかする」
「何とかする、じゃないわよ。『男女入れ替わりDayだよ諸君思う存分普段のうっ憤を晴らしたまえ!!』なんて悪夢がもう一回あるのはHLPDとしては断固拒否する。ランダムで男女性別入れ替えられるなんて・・・私は幸い日頃の行いのおかげで免れたけれど」
「・・・・・あれはまぁ、酷い一日だったよな……」
「写メがあるわよ」
「は?」
「さて誰からの横流しかしら。情報管理甘いんじゃないのライブラの番頭さん?」
「君だから問題ない。が、ザップは後で殺しておく。で、今夜だけど」
「ダイナーなら」
「いつもの?」
「『わたしの』行きつけの店なら」

遠まわしに了承すると、傷のある顔に笑い皺ができた。

「ま、何事もなければだけどね」
「フラグを立てないでくれよ!」

アイスマンの氷が解けきった、なんともいえない顔をどうしようもないな、と思いつつも、会った日に浮かべていた死人のような顔よりは幾分かましになったのだからよしとしている自分に気づく。













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