背中合わせの二人;BBB | ナノ
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12


髪をハルがかきあげた。瞬間に、鼻先をかすめた香り。ほんのわずかに、いつもと違うのに気が付いた。

「・・・ハリー」

呼ぶな、といつも窘められる愛称を呼べば、スティーブンの思惑通りハルが振り返る。ダイナーでの彼女の指定席。カウンターに片手をついて、ほんの少しだけスティーブンは身をかがめた。唇が、額に触れた。空調のせいかわずかに滲んだ汗と、彼女が愛用する香水の香りがまじって、スティーブンの鼻先をくすぐったのだ。

「ちょっと、」

スティーブンの下あごをがしりとハルの手がおしのけた。不機嫌そうに、ハルはスティーブンをにらみつけている。

「何」

スティーブンは口元に笑みを浮かべた。こうして返事をもらえるようになっただけでもかなりの進展である。

「煙草、吸っただろ君」
「・・・・・」
ハルが押し黙る。図星だったのだろう。
「ドクターに黙っててほしい?」
「・・・・・・・」
スティーブンをにらみつけていたハルが視線をそらす。そのままカウンターに頬杖をついた彼女の隣にするりと腰をおろした。沈黙は肯定だ。
「今夜は君のおごりだ」
「よりにもよって、あんたに、気づかれるなんてサイアク」
「マスターに密告しようか?」
「や、め、て」
ぐったりとカウンターにハルが沈む。
現代社会において、今や喫煙は害悪としてみなされつつある。煙草は値上がりし、喫煙所はどんどん隅へとおいやられている。
出会ったころのハルは酷いヘビースモーカーだった。一種の中毒のようで、健康診断のたびに禁煙を厳しくドクターに申し付けられるほどに、である。彼女の顔なじみであるマスターは、煙草を吸うと1か月は出入りを禁止すると宣言するほどだ。
硝煙と、煙草と、香水。ハルの匂いが、スティーブンは割と好きだった。だが、彼女の健康は心配である。
左手で頬杖をついたスティーブンは空いた右手を隣にすわるハルへと伸ばした。
意図を理解したハルが、伏せた顔をわずかにあげて嫌そうにゆがませた。
「君のためだぜ、ハリー?」
「・・・・愛称で、呼ばないで」
しぶしぶポケットから取り出された彼女愛用の煙草を、彼女の目の前で氷漬けにした。
「何でバレたのしからね」とハルが忌々しげに言う。
「愛の力かな」とスティーブンは笑いながらうそぶいた。











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