上司サンド:BBB | ナノ
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09: 「Stimmt So!!」


(おつりはいりません)



おつりはいりません!早口に、ついうっかりドイツ語を口走る。ここはHLなのに。タクシーの運転手が怪訝な顔をしていたがそんなこと構うものか。
アリスは混乱していた。だって、だって、だって!

(スティーブンさんにちゅうされた!!!)

タクシーの中で、唐突に、何気なく、ひきよせられて、「アリス、こっちむいて」とスティーブンさんに言われるがままに座っていてもなお少しだけアリスよりも高い視線にあわせるように、横を見上げた瞬間。
気づいたときにはされていた。

(よりにもよって初ちゅうが!ファーストキス・イン・ザ・タクシー!)

そもそも、二人はキスをするような間柄ではない。断じてない。何せアリスはクラウスの婚約者候補にして、クラウスの寝込みを虎視眈々と狙わなくてはならないという使命を帯びている。それを誰あらん、スティーブンも知っているはずだ。それが何故。

「そんなに嫌がらなくても」
「ついてこないでくださいへんたい!」
「さすがに俺だって傷つくなぁ、ソレ」
「初ちゅう奪われた私のほうがぶろーくん・はーとですよ!」
「ああ、やっぱり初めてだったか」

それはごちそうさま、と長い足ですぐさまアリスに追いついたスティーブンはものすごい剣幕で歩き続けているアリスの横で「ははは」と笑う。

「せくはら!ぱわはら!く、くくらうすさんにうったえてやる!」

「初ちゅう奪われちゃいましたって報告するの?クラウスに?」

「〜〜っ、」

(だめだむりだそんなこといえない!はずかしくてしぬ!ていうか、そのまま結婚式の準備されそう!)


タクシーの中で一体どんな化学変化がスティーブンにおきてあんな事態になってしまったのか。アリスは自分の行動を何度も振り返るが、

「ていうかわからん!いったいさっきの流れのどこにちゅうする要素が?!」

「……」

「そこでだんまり!?」

口元に片手でおさえたスティーブンは困ったように視線をそらす。
ふりかえって腰に手をあてたアリスが仁王立ちでスティーブンを睨む。正直涙がにじんでいて頬は上気しているせいで少しも怖くない。

「す、スティーブンさんはそりゃあ慣れてるかもしれませんけど、わたし初心者なんですよ?夢見る乙女ですよ?初ちゅうは星空の見えるテラスで二人っきり!とかってささやかな夢がこっぱみじんです!ひどすぎです!」

少女趣味まるだしの要求である。

「よしよしわかった、やり直すから今晩はうちにおいで。星空は見えないがテラスはある」

なるほどシチュエーションさえ押さえれば許されるのか、といわんばかりのスティーブンに更にアリスは顔を赤くさせる。

「いきませんよ!?わたしの初ちゅう奪っといてその軽いノリはなんですか!わたしの初ちゅうはそんな安くないんですからね!!そんがいばいしょーですからね?!」

「おつりはいらないよ」

「へ?」

騒がしいアリスを抱え込んで、ビルとビルの合間に連れ込む。そのまま建物の壁におしつけて、にっこりと笑ってやれば、アリスはみるみる顔を蒼ざめさせる。

「俺のキスは結構高いけど、おつりもぜんぶとっといといてくれていいから」

せかんどちゅうもうばわれました(白目)



***


「ごめんごめん、悪かったよアリス」

「もう二度と!徹夜明けのスティーブンさんと一緒にタクシーなんて乗りません!二度と!ねばー!!!」


徹夜のたびに、ちょっとおかしいスティーブンに乙女の純情を弄ばれ続けるこの事態にアリスはこのままいくとうっかりベッドに連れ込まれる!!と危機感を募らせている。










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