上司サンド:BBB | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



Midnight Icecream


それは本当に偶然だったのか、それとも神様の気まぐれだったのか。
単に彼女が最高に間の悪い性質なだけなのか。
その日、スティーブンはアリスをどう始末するべきか、を一瞬ではあるが真剣に検討した。

クラウスさえ知らない、スティーブンの裏の仕事の真っ最中を、アリスに目撃された。氷漬けにした裏切りものの頭を踏み砕く瞬間のことである。
目を真ん丸に見開いたアリスはスティーブンがスティーブンが決断を下すよりも先に茫然自失から立ち直った。こういうところ、彼女は非常に打たれ強い。

「わ、たし、アイスクリーム買いにいくところだった!」

随分とこの場に不釣り合いなセリフだ。くるりと背をむけてアリスが駆けだした。
「追いかけますか」という部下の言葉に首をふる。
血だまりの中に転がる氷の塊を更に細かく後も残さぬように蹴り砕いた。

「・・・様子を見るさ」

クラウスすらも知らない裏の顔。薄汚い仕事。知られてしまった。
倒れるだろうか、泣きわめくだろうか、それとも軽蔑されるだろうか。

『もしこんな自分を知れば、この子はどんな顔をするだろう』とスティーブンが自虐的に想像したどんな表情とも違う顔をしていた。
よくよくスティーブンに懐いてくれていたが、さしものお気楽お嬢様もこれで距離をとるに違いない。
暗躍がお得意の『あの』ローゼンシュタインの人間だ。沈黙が何よりも正しいことをくらいは兄から教わっていると信じたい。



ライブラの扉が開く。スティーブンはいつも通りの顔をして、足を踏み入れた。

「ああ、帰ったのかねスティーブン」

クラウスが言った。いつも通りの調子だ。

「厄介な女性に捕まっててね。くたくただよ」と肩をすくめて見せれば、クラウスそうはすまなさそうに眉根をよせた。

「スティーブンには苦労ばかりかける」
「どってことはないさ」

笑いながらクラウスの肩を叩く。その厄介な女性がどうなったかは口にしない。

「アリス」

クラウスがソファに座る少女に声をかけた。ほんの少し、スティーブンは警戒を強めた。
クラウスの様子からして、彼女はまだ何も伝えてはいないらしい。

「む?」

振り返った少女はスプーンでアイスクリームを頬張ったまま「おかえりなひゃい」と間延びした声で返事をした。
口元についたアイスを行儀の悪い舌がぺろりとなめとった。お嬢様とも思えぬ仕草だ。

「・・・おいしいかい」
「とっても」

デスクの上には数種類のカップが並べられている。

「おいおい。アイスクリームショップでも始めるつもりか?」
「一個100ぜーろで売ってあげてもいいですよ?」
「高い」
「HL限定100個の幻のアイスを売ってるところなんですよ?!レオくんが偶然見つけてくれて、それを教えてくれたんです」
「・・・義眼つかったのか」
「まぁたまにはいいじゃないですか!」
「たまにか?」
「疲れてるときって甘いもの食べたくないです?」
「疲れてる時、ね……たとえば?」
「たとえ?えー、っと、えー、あー、今とか?アイスのために全力疾走したので」

全力疾走の原因はアイスだけではないはずだ。
まずいものを見たからだろう?と言いたくなる。
なのに、アリスはなんにもみていませんと言う。賢い子だ。


「僕にも一個くれるかい?疲れてるんだ」

「あー、おつかれさまです」

アリスの目が泳いでいる。何に疲れているか、とは聞かないところも懸命だ。

「甘いのにします?」

「そっちのは?」

「ああっ、それは限定品のやつですよ?!」

「じゃあこれにする」

半泣きになりながら「スティーブンさんがたべたいなら・・・・」とぐじぐじと言いつつアリスはスティーブンにアイスを差し出した。「血の色みたいに真っ赤だなぁ、これ」

アリスがごくんと息を飲み込んだ。限定のアイスは真っ赤な血のような赤だけれどなめても血の味はしなかった。

「・・・・・・血の味がする奴は端っこにあるどす黒いのですよ」

「え、そんな味あるのか?」

「HLのアイス屋さんですもん。色もそれっぽい・・・・ほら、昔はやった映画に出てたおかしで百味ビーンズ?ってあったじゃないですか。そのアイス版を作ったらしいんです。ひっどい味も多いけどおしゃれな味もたくさんあるから人気なんですよ!」

「君が今食べてる青っぽいのは?」

「これは《真夜中の秘密》味ですよ!禁断の味がしますね・・・・クールな色味なんですけどとにかっく甘い!」

「真夜中にする秘密は確かにそういうもんかもね」

「へぇ。そんなものですか?」

「誰にだって秘密はある――君にだってあるだろ?」

「へ?ええっと、あー、うー、」

「アイス垂れてるぞ」

「ぎゃあっ、はやく食べなきゃ!」

「こぼすなよ、秘密をこぼす奴には罰がくだるのが鉄則だ」

「は?!いやいやいや、まって!え?!」

「君、ほんとにローゼンシュタインの家の子だったんだなぁ」

「・・・・・・っえ?あ、や、その、」

アイスを一口、スプーンですくう。そのままアリスの口元に運んでやると、アイスとスティーブンの顔を何度も往復しながらアリスは困惑でいっぱいに瞳を見開いている。

「ほら」

差し出されたアイスにぱくりとアリスは飲み込んだ。

「なぁ、アリス」

「・・・なんでしょうか」

「あんまり危ないとこ行っちゃいけないよ」

「・・・・・・気を付けます」


もういらない!とアリスがギブアップして逃げ出すまで、延々とスティーブンはアリスにアイスを食べさせた。餌やりは楽しい、とにこやかに背伸びをするスティーブンを「ダイエットしなきゃ・・・」とアリスはうらめしげに見ていた。








prev / next