上司サンド:BBB | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



Only the pure in heart can make a good soup.


クラウスとスティーブンはどちらも頑固だ。
ライブラ結成当初、この二人は実によく喧嘩をしていたことを知るものは割と少ない。
拳と脚が、本気のぶつかりあいを始めると、一番被害をこうむるのは誰なのか。
それは火を見るよりも明らかだった。



ばたん。
人が倒れる音がした。
二人はお互いの顔を見合わせる。目の前の相手は倒れてなどいない。では今の音は?
その答えにいきついて「ううう、」という小さな唸り声に、頭に上っていた血が下がっていく。
冷静さを取り戻せば、荒れ果てた執務室に、襤褸切れのような恰好をした大人が二人。察しのいいメンバーは、二人が喧嘩ムードになった瞬間に撤退を決め込んでいるし、事務方の連中も同様である。
めちゃくちゃになった部屋を二人はぐるりと見渡した。
この部屋以外に、勝手に行けない人物が一人いたことを思い出したのだ。


「・・・いない」
「……どっかで埋まってるなこりゃ」

ヤレヤレとスティーブンは肩をすくめる。クラウスはあわあわと部屋を見渡した。


「アリス!どこだね?!」
「お嬢さん、無事かい? まだ生きてるか?」

本棚がソファーの背に倒れている。その横から、にょっきりと手が伸びた。

「お、おきづかいないく!」

ひらひらと「続きやってどうぞ」と促されるが、そんな空気はもうなくなってしまった。ソファが無かったら、馬鹿でかい本棚はその手の持ち主に直撃していただろう。


「怪我はないか?!」とクラウスが慌てて本棚を壁へと戻す。へたりこんでいるアリスが、頭をさすった。
本が一冊かすめたが、それ以外には無事だった。運が良かったな、と彼女はへらりと笑う。


「平気です。すいません、私、お二人のどっちかが許可くれないと外にも出れなくて」

喧嘩が始まりそうだったときに、逃げ出して行った連中が渡したのか工事現場でかぶられているようなヘルメットをかぶっている。ここにきて半年を経過したアリスはもう随分とライブラでの生活に馴染みつつあった。クラウスを見て倒れなくなったのは大いなる進歩といえた。


「で、話しはまとまりました?」

スティーブンとクラウスは顔を見合わせた。はて、何をあんなにもヒートアップして議論していたのか。スティーブンの無茶を心配し、クラウスの強情さを心配し。だが結果として、二人まとめてアリスに心配をかけていた事実に毒気をぬかれた。

「あ〜、それよか片づけしなくちゃな」
「掃除道具はさっき窓の外に飛んで行きましたよ?クラウスさんの華麗な右ストレートをスティーブンさんが躱して、掃除用具入れてたロッカーが宙を舞った瞬間を私は目撃しました!」

拳をにぎって報告するとクラウスががっくりとうなだれた。

「・・・掃除道具を買いに出よう」
「どっか外に転がってるんじゃないか?」
「おなかすきませんか」
「空いた・・・途中でどっかに寄るか」
「じゃあご飯も買って帰りましょう」

よっこらせ、とアリスが立ち上がろうとした目の前に、二つの手が差し出された。見上げた先にはクラウスとスティーブンがいた。
右手をクラウスに、左手をスティーブンとつないで、あっというまにアリスは床に別れを告げた。

「宇宙人に浚われる人の図みたいだな」とスティーブンがからかい、それはなんだろうか?とクラウスが真顔で疑問符を浮かべる。アリスは腹を立てるのも忘れて笑い出した。









prev / next