ことばを、おもいだした。
 そして、ないあたまで、かんがえた。

 さいきん、やたらとさついをむけてくるやつがいる。そいつは、ひによってころしかたをかえてくる。おびえるばかどもとは、すこしちがう。
 だから、かんがえることをやめたじぶんは、はんのうしきれない。すぐにえものにのどをかききられて、ぱっといしきをてばなしてしまう。

 なんども。なんども。なんども。

 じぶんはしんでもしねないから、また、めをさまして、ぼんやりじめんをみつめる。
 すると、そいつがまた、めのまえにあらわれる。
 じゅんすいなさついと、めいかくなてきいが、からだをうごかして、また、しをくりかえす。まいにちちがう、ころしかたをする。

 このままではいけない。このままではゆるせない。
 ないあたまでは、げんじょうを、だはすることはできない。
 だからほしがった。あたまを。かんがえることを。ちせいを。
 もりをすてて、ゆっくりと、まちへ。
 みられたらにげられる。だから、うしろからそっとひきこんで、ころす。
 じぶんは、いきているものをころすのがやくめ。いきをとめることがやくめ。そのこうどうに、かんがえることはいらなかったから、すてた。
 すてたから、いまはすぐころされる。
 だからたべる。ちにくをむさぼる。にんげんの、にくを、ほねを、はらわたを、あたまを、めを。

 たべて、たべて、たべて、たべて、たべて、たべてたべてたべてたべてたべて食べて――

 ――思考を得た。

 虚無の海を漂っているようだった。黒だか、白だかは分からない。ただ何もない空間に、身を委ねながら無と対峙していた。その頃の自分自身はあまりにも幼稚で、所謂赤子のような生き物だった。
 言語を忘れて、ただ目の前の生き物を殺すだけの、謂わば殺戮兵器。命の灯火を掻き消すのが俺の役目だったわけだ。
 思考を取り戻した俺は、不思議と興奮に満ちていた。人間達の話す言葉をひとつひとつ噛み砕き、咀嚼して、喉の奥へと流し込む。理解する度に少しずつ、胸の奥が満たされるような、不思議な感覚を得る。
 それが感情であることに気が付く頃には、俺は自殺に手を出すことはしなかった。
 何故死を選んでいたのか。今となって考えてみれば、役目を終えた自分には生きる意味がないと思っていたのだろう。喉を掻き切り、次の獲物を眠りながら待つ――ただその繰り返し。
 以前はそれが当たり前で、最善だと思っていたのだろう。

 街をひとつ滅ぼして、あるべき森へとまた歩く。黒の荒れ地に生命の息吹など感じられない。こちら側ではそれが当たり前の日常。人殺しの溜まり場で、俺に殺され続ける断罪を、彼らは何度も繰り返すのだ。
 無論、己の役目を嫌だとは思ったことがない。それこそが俺の存在理由なのだから。いくらでも殺意を向けられて、喜んで対峙するのが、俺という生き物だ。

 だから俺は、定位置で待つ。
 待つ、ということへの思考など働かせたことがなかったが、如何せん退屈なものだった。まだか、まだかと思うほどには俺は奴を気に入っていて、他の誰にも手を出してもらいたくないのだ。
 その時間の邪魔をしてくるのなら、排除しなくてはならない。奴に対する思考を、感情を、熱意を、殺意を、他の誰かに邪魔されたくないから。

 ――ほら、また向けられる。純粋な殺意が。明確な悪意が。ただ一心に、俺を、捉えている。
 なんて喜ばしいことだろうか。他でもない奴が、まるで相思相愛だと言うかのように、俺を殺そうとするのだ。
 だから俺は、笑って、笑って、呟くのだ。

「もっと、もっと――遊ぼうぜ」

 逃しはしない。未来永劫、輪廻転生の輪に捕らわれ続けろ。

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殺し合おう


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