「華泉さん好き〜!」

 そう言って俺に抱き着いて、コミュニケーションを取るように平然と口付けをする男。灰色だか、黒だか、白だか、曖昧な世界にぽつんと浮かぶ、赤みのある桃色の瞳。
 その目が俺をまっすぐに見つめてくる。弧を描く口許から、好意を示す言葉がどんどん溢れてくる。

 好き。大好き。可愛い。

 絶えず溢れる言葉に、よく飽きないな、と溜め息を溢して、軽く笑う。笑って、あしらうように頭を撫でてやって、「飽きねぇなァ」と呟く。
 それがふて腐れるように頬を膨らませた。飽きるわけないでしょう、なんて言って、色付いた瞳が僅かに細められる。
 立て続けに「俺のこと嫌いなの?」なんて言ってから、ふて腐れていた瞳が悲しげに落ち込むものだから、百面相だと思う。
 思って、「嫌いじゃねえよ」と言って、髪をくしゃくしゃに撫でてやる。犬を可愛がるように。
 それが少し心地いいようで――

「じゃあ俺のこと好き?」

 ――と、訊いてきた。特別嫌がるような素振りは見せない。ただ、俺からの返事を待つように見上げてくるだけ。

 こいつからもらっている分のものが、俺には返せる自信がない。同じ量を、同じだけ返してやれる気がしない。

 今は好きだと言えない。だから、「そうだなァ」と言って、軽く笑ってやった。

prev next

今はまだ


- ナノ -