▼ 91
「つまり…その効果は人由来…個性ってこと?個性による個性破壊」
ファットガムの話を聞いたリューキュウがそう発言すると、プロヒーローの1人が死穢八斎會とどう繋がるのか問うた
「今回切島くんが捕らえた男!そいつが使用した違法薬物な
そういうブツの流通経路は複数でな、今でこそかなり縮小されたが色んな人間・グループ・組織が何段階にも卸売りを重ねてようやっと末端に行き着くんや
八斎會がブツ捌いとった証拠はないけど、どの中間売買組織の1つと八斎會は交流があった」
「それだけ!?」
「先日リューキュウ達が退治したヴィラングループ同士の抗争
片方のグループの元締めがその交流のあった中間売買組織だった」
ナイトアイに頷いたリューキュウが口を開く
「巨大化した1人は効果の持続が短い粗悪品を売っていたそうよ」
「最近多発している組織的犯行の多くが八斎會につなげようと思えば繋がるのか」
「ちょっとまだわからんな…どうも八斎會をどうにかクロにしたくてこじつけてるような…もっとこうバシッと繋がらんかね?」
その意見にナイトアイの背後にあるモニターが切り替わる
そこには特徴的なマスク…ペストマスクだったかな、それを身につけた男の姿
「若頭、治崎の個性はオーバーホール…対象の分解・修復が可能という力です
分解…一度"壊し""治す"個性、そして個性を"破壊"する弾
治崎には娘がいる…出生届もなく詳細は不明ですがこの2人が遭遇した時には手脚に夥しく包帯が巻かれていた」
話がつながった
俯いている通形先輩や緑谷くんも気がついているんだろう、そして唄ちゃんも
ギルティルージュは静かに、けれど冷たい声で告げた
「娘の身体を銃弾にして捌いてるんじゃないかってことよ」
その言葉に話を飲み込めていなかった切島くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃんの顔色が変わった
唄ちゃんの手が震えている、彼女はその個性を狙い殺されかけた
幼少期、何も知らない頃、ヴィランの大人の都合で利用されかけた
「(だからかな…その娘と自分を重ねてるように見える)」
ギルティルージュも気がついているだろう、それでもこの場に連れてきた
私たちは他の事務所と異なりこの件の直接の関わりはない
それでも招集されたのはひとえにギルティルージュの個性ゆえだ
彼女の魅了は人を掌握できる、強力であり特にこういった組織犯罪相手にはもってこいのもの
「実際に売買しているのかはわかりません、現段階では性能としてあまりに半端です
ただ…仮にそれが試作段階にあるとしてプレゼンの為のサンプルを仲間集めに使っていたとしたら…
確たる証はありません、しかし全国に渡る仲間集め、資金集め
もしも弾の完成形が個性を完全に破壊するものだとしたら…?悪事のアイデアがいくつでも湧いてくる」
「想像しただけで腹わた煮えくり返る!今すぐガサ入れじゃ!!」
「こいつらが子供保護してりゃ一発解決だったんじゃねーの!?」
ロックロックの言葉に通形先輩と緑谷くんが歯を食いしばった
「全て私の責任だ、2人を責めないで頂きたい
知らなかった事とはいえ…2人ともその娘を救けようと行動したのです、今この場で一番悔しいのはこの2人です」
「今度こそ必ずエリちゃんを…!」
保護する
そう強く語った2人
「それが私たちの目的になります」
「ケッ、ガキがイキるのもいいけどよ
推測通りだとして若頭にとっちゃその子は隠しておきたかった核なんだろ?
それが何らかのトラブルで外に出ちまってだ!あまつさえガキんちょヒーローに見られちまった!
素直に本拠地に置いとくか?俺なら置かない、攻め入るにしてもその子がいませんでしたじゃ話にならねえぞ、どこにいるのか特定できてんのか?」
「確かに、どうなのナイトアイ」
ロックロックは言い方こそキツいけれど言っていることは間違えてない
リューキュウも賛同した
「問題はそこです、何をどこまで計画しているのは不透明な以上
一度で確実に叩かねば反撃のチャンスを与えかねない…
そこで八斎會と接点のある組織・グループ及び八斎會の持つ土地!可能な限り洗い出しリストアップしました!
皆さんには各自その箇所を探っていただき拠点となり得るポイントを絞ってもらいたい!」
マイナーヒーローを呼んだのは土地勘のあるヒーローが必要な為
ギルティルージュの拠点の近くにもその箇所はある
けれどこのやり方にファットガムは納得がいかない
「オールマイトの元サイドキックな割にずいぶん慎重やな回りくどいわ!
こうしてる間にもエリちゃんいう子、泣いてるかもしれへんのやぞ!!」
「我々はオールマイトにはなれない!だからこそ分析と予測を重ね救けられる可能性を100%に近づけなければ!」
「焦っちゃあいけねえ、下手に大きく出て捕らえ損ねた場合火種が更に大きくなりかねん
ステインの逮捕劇が連合のPRになっちまったようにな
むしろ一介のチンピラに個性破壊なんつー武器流したのもそういう意図があってのことかもしらん」
「…考え過ぎやろ!そないな事ばっか言うとったら身動き取れやんようになるで!!」
どちらの言い分も正しい
言い合うヒーロー達を見ていた相澤先生が挙手をした
「あのー…1つ良いですか
どういう性能かは存じませんがサー・ナイトアイ
未来を予知できるなら俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか、このままでは少々…合理性に欠ける」
確かにそうだろう
未来を見れば選択が変わる
しかしナイトアイは険しい表情のままだ
「…それは出来ない、私の予知性能ですが発動したら24時間のインターバルを要する、つまり1日1時間1人しか見ることが出来ない
そしてフラッシュバックのように1コマ1コマが脳裏に映される、発動してから1時間の間他人の生涯を記録したフィルムを見られる…と考えて頂きたい
ただしそのフィルムは全編人物のすぐ近くからの視点、見えるのはあくまで個人の行動と僅かな周辺環境だ」
「いや、それだけでも充分すぎるほど色々わかるでしょう…出来ないとはどういう事なんですか」
「例えばその人物に近い将来、死…ただ無慈悲な死が待っていたらどうします」
ナイトアイの言葉に思わず息を飲んだ
もしかして彼はその個性で大切な人の死を見てしまったんだろうか…と
「この個性は行動の成功率を最大まで引き上げた後に勝利のダメ押しとして使うものです
不確定要素の多い間は闇雲に見るべきじゃない」
「はあ!?死だって情報だろう!?そうならねェための策を講じられるぜ!?」
「占いとは違う、回避できる確証はない!」
頑ななナイトアイにロックロックが噛みつく
「ナイトアイ!よくわかんねえな
いいぜ俺を見てみろ!いくらでも回避してやるよ!!」
「ダメだ」
ただ静かに
けれどはっきりと告げたその言葉に全員が黙り込む
「とりあえずやりましょう、ここで言い合っていても仕方ないもの
"困っている子がいる"これが最も重要よ」
ギルティルージュの言葉に一同は頷いた
「娘の居場所の特定・保護、可能な限り確度を高め早期解決を目指します!ご協力よろしくお願いします!」
ナイトアイの言葉がやけに脳裏に焼き付いたのはきっとその表情がとても苦しそうだったからだろう
prev / next