ヒロアカaqua


▼ 05



7月下旬


じりじりと焼け付く日差し
グラウンドの真下で体育を受けている私の周りには今日何度目かの飲み干したペットボトル

「雫大丈夫?なんか顔やばいよ…」

「無理かも…」

ぐったりしているのには理由がある
私の個性は水分、空気中の水分を操ることが可能で温度をいじれば氷や水蒸気も使用できる何とも便利な物
けれどそれを発動するには体内の水分量が鍵になっているので水分補給は他人以上に必要不可欠だ

今日の体育の授業は個性強化
それ故にさっきから水を飲んでいるけれど全然満たされない

「夏は相性悪いもんね、可哀想」

「体内の水分も不足するし、空気中の水分も不足するし…まさにデスシーズン!」

普段は気丈に振る舞う私がへなっている姿が面白いのか笑っている友達を恨めしい目で眺める

「次海色さんね」

先生に呼ばれ前に出る
個性強化の授業は好きだ、全力でやっても怒られないから
グラウンドに立てられた複数の的それを全て攻撃するまでのタイムを競うらしい
ラインに立って深呼吸し集中する





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教師が急用か何かで自習になった授業
窓際の席で他の授業の課題をしていたが、クラスの奴らが騒がしい

「おい見ろよ!個性強化の授業やってるクラスって海色さんのとこじゃねえ!?」

海色

その名前に一斉に何人かの生徒が窓際に押し寄せてきた
迷惑だと思いつつもチラッとグラウンドに目を向ければ暑さでバテてる雫がいた

個性的にもあいつは夏が苦手だと言っていた
こんな炎天下の中個性強化の授業なんて正直同情する

「海色さんてほんと綺麗だよね」

「なんかもう別次元の人って感じ!」

「わかるー!」

外面がいい雫は穏やかな美人、品行方正、成績優秀と高評価を受けているらしい
全部本当のことだが俺の前では喜怒哀楽がはっきりしているし、実は大食いだったりもする
それに周りの評価よりもずっと欲張りだ

ちょうど雫の番が来たようで前に出てきたアイツは腕を一振り
その一瞬でグラウンドにランダムに立てられた的が水の刀で全て打ち抜かれた

その姿に盛り上がるクラスメイト達

親父が欲しがるのも無理はない
ただの水の個性じゃない、氷も水蒸気も操るそれはまさに水系最強格
それに鍛え抜かれたその個性を使いこなせるのは雫だからこそだろう

「(空気中の水分を凝縮、それらを具現化、更に高威力で打ち出すセンス、的を全て射抜く空間把握能力)」

全部アイツの努力の成果だ
両親のためにヒーローを目指す、そう言った雫
俺とは正反対な理由だが向いている方向は同じ

雄英を目指すと宣言してきた時は驚いたが雫といると悪い気はしない
家のことに不用意に踏み込んでくることもない

馴れ合うつもりはなかった、それでも雫の存在は大きい
だからこそ許嫁なんてもんで縛りつけた親父は許せねえ




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授業が終わりクーラーの効いた教室に戻ってきた私の手にはアイス
さっき購買で友達と買ってきたんだけれど生き返る

「あ、そうだ!夏休みみんなでどっか行こうよ!」

そう提案した友達
他の子もわいわい盛り上がる姿を眺めているとみんなの視線がこちらへ向く

「雫はどうする?」

「私は夏休み中毎日ここで雄英向け夏期講習だから」

「「「あー…どんまい」」」

雄英を目指すと決めたことで凝山の教師陣も本気になったらしい
推薦枠の焦凍くんと一般入試組の私はもれなく特訓が決定した

特訓は嫌いじゃない、できることが増えるのは嬉しい
けれど夏休み返上というのは全然納得がいかない
てゆーかみんなも受験あるのにずいぶん余裕だなあ

「お土産買ってくるからね」

「うん、楽しみにしてる」

羨ましいけど中途半端なことをして落ちるなんてことがあったら一生後悔しそうだ
それに焦凍くんに宣言した以上合格以外の結果はない

「あれ、ってことは夏休み中毎日轟くんと会えるってこと?!」

ハッとした友達に頷く
雄英を受けるのは私たち二人だけなので、一緒に訓練することになるしそういうことだろう
友達は私が焦凍くんとどういう関係なのか知らない
許嫁だなんて知ったら根掘り葉掘り聞かれるに違いないから敢えて隠している

「羨ましい!」

「私もあんなイケメンと会話したい!」

「(会話ならいつでもしてくれると思うけれどなあ)」

ただ友達の言う通り毎日会えるのは正直嬉しい
夏が俄然楽しみになってきた










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