ヒロアカaqua


▼ 06



夏休み中

雄英向けの夏期講習に参加していた私と焦凍くんは今日も疲弊した体を連れて帰路についていた

「もうほんと、うちの学校やりすぎ…」

「まあな」

雄英輩出に向けて盛り上がっているのはわかるけれど加減をしてほしい
訓練中に失った水分を補給するように水を飲んでいると、浴衣を着て歩いている人とすれ違った

「あれ、今日ってお祭りあったっけ?」

「祭り?」

怪訝そうな顔をした焦凍くんにポカンとする

「…もしかしてお祭り行ったことない?」

「ねぇな」

これは一大事だと焦凍くんの手を握って浴衣を着た人と同じ方向へ歩き始める

「お、おい雫」

「焦凍くん門限ある?」

「いや別にねぇけど」

「じゃあちょっと付き合ってよ」

にこりと微笑んだ私に首を傾げた焦凍くんが大人しくついてくる
到着してみれば近くの神社でやっているお祭りのようで結構人が集まっていた

「わあー!お祭りだ!」

幼い頃何度か両親と来たことがあるけれど楽しかった記憶しかない
去年は友達と行く約束だったけれど雨で流れてしまったから何年ぶりだろうか

「ね、せっかくだからちょっと見ていこうよ」

「お前最初からそのつもりだったろ」

「ふふ、そうだよ」

焦凍くんの手を離して人混みに入っていこうとするけれど、その手はすぐに繋がれた

「はぐれると困んだろ、ちゃんと繋いでろ」

そう告げた焦凍くんに面食らってしまったけれど大人しく言う通り手を繋いだまま人混みに入っていく
繋いだ手が熱い気がするのは焦凍くんの左側の個性の影響だと思う

その後手当り次第ゲーム系の屋台で勝負していた私達
初めてのお祭りという焦凍くんはやっぱり反応は薄いけれど楽しんでいるように見える
そして今は金魚すくいで勝負中、手元のボウルの中で金魚があわあわと忙しなく泳いでいる
もう一匹すくえるかなと思ったけれど残念ながらポイが破けてしまった

「あらら、残念」

早々と破けていた焦凍くんは私が掬っていく様子をまじまじと観察していた

「同じ紙なのにすげぇな」

「コツさえ掴めば簡単だよ」

そう告げ金魚を元のいけすに戻してから立ち上がる

「いいのか?何匹か貰えるらしいぞ」

「ううん、水槽の中で飼うのって可哀想だから」

狭い所に親や子供、友達と離されて飼われるなんて可哀想だ
このいけすの中にいる時点で自由はないかもしれない、それでもさらに狭いところに閉じ込める気にはならない

「そろそろお腹すいてきちゃった、なにか食べない?」

「蕎麦」

「流石に蕎麦は置いてないと思うな…」

たこ焼きや焼きそば、他にも色々買って人混みの少ない場所に移動しベンチに並んで座る
会場から少し離れただけで辺りが静かになったような気がして不思議な感覚だ

「何食べる?」

「んじゃあ焼きそば」

「(どうしても蕎麦が食べたかったんだなあ)」

同じ麺類を選んだ焦凍くんに焼きそばの入った容器を渡す
私もたこ焼きの容器を袋から取り出して熱々のそれを一つ口に放り込んだ

「んーっ!美味しい!!」

目を輝かせているとフッという笑い声がしたので焦凍くんに目を向けるとこっちを見て口角を上げている

「子供っぽいよな、お前」

「そうかな?」

「いつも大人ぶってるから余計にそう見えんのかもな」

その通りかもしれない
聞き分けの良いいい子でいる、幼少期からそれが習慣付いているおかげで外面だけが良くなってしまった
本当は両親に我儘も言いたかったし、特訓は嫌いじゃないけれどちょっとは同年代の子と同じように遊んでみたかった
成績も上位をキープするために毎日一生懸命勉強している
必要な努力は全部してきた、それでもやっぱり理不尽なことはあるわけで、その一つが焦凍くんの許嫁になったことだと思う

「…私初めてなんだ、こうやって誰かに素の自分を見せるの
そりゃあお父さんとお母さんの前でも少しは素でいるけど、100%自然体なのは焦凍くんの前だけ」

だから友達になれて良かった
そう告げて笑いかけると、焦凍くんは少しびっくりしたような表情をしてから再び焼きそばを食べ始めた

私も冷めないうちに食べちゃおうとたこ焼きをもう一つ口に入れる
結構大食いするタイプなのでどんどん食べ進め、次は何を食べようかと思案した
そんな私の耳に「俺も」と届いたのでごくんと飲み込んでから首を傾げた

「え?」

「俺も誰かと出掛けたのは雫が初めてだ」

きっと焦凍くんは何の気なしにそう言ったに違いない
それでも彼が取り繕うタイプではなくて思ったことしか口に出さないのを知っているから嬉しくなる

「来年も来れたらいいね、夏祭り」

「そうだな」

その時は一緒に雄英に通っているんだろうかと想像すると思わず頬が緩んでしまった











prev / next



- ナノ -