ヒロアカaqua


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その日の晩

寮に戻ってきたA組の面々
みんな疲れたのかすぐにご飯を食べお風呂に入った

部屋に戻って冷蔵庫を見れば空っぽ
しまった下の共同の冷蔵庫に水入れっぱなしだったっけ

そう思ってエレベーターを降りると、そこには焦凍くんがいた

「あ」

バチっと合ってしまった目

「珍しいね、こんな時間に起きてるの」

「ああ…ちょっと考え事してて」

会話をしながらキッチンの冷蔵庫に入っている水のペットボトルを取り出して部屋に戻ろうとする
いざ焦凍くんを前にするとなんて言っていいのかわからないし、一晩考えてからまた明日話をしよう
そう思った私の腕が掴まれた

「え」

びっくりして振り向けば何か言いたげな焦凍くんがそこにいた

「雫」

口を開いた瞬間バンっ!と一斉に消えた電気
消灯時間が来たらしい、共同スペースは勿論廊下の灯りも全て消えている

外の月明かりしかないその空間に焦凍くんは手を離した

「悪ィ、時間も遅いし今日は…」

そう言おうとした焦凍くんの手を今度は私が握る

「話そう、今から」

うやむやにしたままじゃダメだ
そう思って握った手を焦凍くんは握り返してくれた

とは言え消灯時間は過ぎている
どこで話すかと考えていると焦凍くんはある提案をしてきた




「(お、落ち着かない…)」

そこは焦凍くんの部屋
外のベンチでも良かったけれど、焦凍くん曰く「虫出るぞ」とのこと
それは本当に勘弁したいのでこの案を承諾することに

「茶でいいか?」

「おかまいなく…」

もうみんな寝てるだろうからここまでは難なく来れたけど帰りはさすがにベランダから屋根に上がって自分の部屋に帰ろうと遠い目をする
こんなところを誰かに見つかったら大変どころじゃ済まない

「それ使っていいぞ」

焦凍くんが指さしたのは座椅子

「いやいや、全然畳で十分だよ」

「そうか」

しばし静寂
焦凍くんは今日仮免試験に落ちている
なんて声をかけるべきか考えていると先に焦凍くんが口を開いた

「今日は悪かった」

"お節介だっつってんだよ、自己満足に浸りてぇだけなら他の奴の世話でも焼いてろ"

あの発言のことだろう
私も首を横に振る

「ごめんね、触れられたくないことってあるよね」

焦凍くん相手だからとズケズケと介入した私のせいだ

「そうじゃねぇ…苛立ってたっつーか…思ってないことを口走っちまった」

「夜嵐くんのこと?」

その名前に焦凍くんが目を伏せ口を開いた

「…お前が告白されたって聞いて…イラついた」

再び静寂
言われたことの意味を理解できずフリーズしていると、焦凍くんの目が真っ直ぐとこっちに向けられる

「お前の1番仲良い男は俺がいい」

"焦凍くんの1番仲良い女の子は私がいい"

そう以前言ったことがある
あの時は焦凍くんも少し照れていたけれど言われた方はこんなに恥ずかしいのか
熱を帯びる頬を押さえて「な…何それ…!」と震えた声を出す

「何って、そのままの意味だが」

「そっ!そのま」

ギョッとして思わず大声を出しかけた私
けれどここは男子棟
咄嗟に焦凍くんが口を押さえるけれど勢い余って2人して畳に倒れ込む

「っ、悪ィ」

起き上がろうとした焦凍くんの服を掴んだ

「まって…今顔見られたくない…」

やばい、絶対やばい
心臓もばくばく言ってる、それにこんな近くに焦凍くんがいる

私の手が少し震えてることに気がついた焦凍くんはハッとした

「お前…まさか風邪か?」

「(えぇー…)」

どうしてそうなるんだと思うけれど、慌てた焦凍くんが布団を敷き始めたので疑問符が飛び交う

「寝ろ、看病ならできる」

「いや待って」

有無を言わせず寝かせようとしてくる焦凍くんの右手がおでこに触れた
あ、ひんやりしてて気持ちいい

「やっぱ熱いな…」

心配そうにする焦凍くん
鈍感で天然で、よくわかんないところもいっぱいあるけど私は彼が好きだ

「焦凍くんも一緒に寝ようよ」

「は?」

「お願い」

さすがに熱もないのに一晩中看病させるわけにはいかないのでそう提案したけれど、いざ2人で寝転んでみてその恥ずかしさに益々恥ずかしくなる

「狭くねえか?」

「大丈夫」

ぴったりくっついた腕が熱い
私だけがこんなにドキドキしてるんだろうか
そう思って焦凍くんを見れば彼もまた少し赤くなってて照れているのが分かる

「…朝早めに起きて部屋に戻らないと見つかっちゃうね」

「そうだな」

今日はいい夢が見れそうだ
そう思って目を閉じた










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