ヒロアカaqua


▼ 03



休日のとある日

「雫、ちょっとおつかい頼んでいい?」

お母さんの言葉に二つ返事で承諾し、リストアップされた品々が書かれた紙を受け取る

リビングでテレビを眺めているお父さんが「車には気をつけてな」と声をかけてくれた
返事をしながらそちらに目をやると丁度テレビには今話題のヒーロー兼女優のギルティルージュが映っている
サキュバスの個性の彼女は同性の私から見てもとても魅力的で羨ましい

「そう言えば昔ギルティルージュと共に名を馳せた輝莉ってモデルがいたの知ってるか?」

「ええ、とっても綺麗な天使の羽を持った美人さんだったわね!!ファンだったのよ私」

「私もだよ、突然引退した時はショックだったなぁ」

両親が昔話に花を咲かせているので邪魔しないように家を出た
楽しそうにしている両親を見ていると安心する

「(私をここまで育ててくれたのは2人だ、今度は私が2人を安心させなきゃ)」

幼いながら2人のためにできることは何だろうと考えた時、ヒーローになるとすんなり決意した
何かに憧れたわけじゃない、それでも両親が楽をできるのならその選択をする

本当は雄英に行ったほうがいいことくらい分かってる
それでも焦凍くんと必要以上に仲良くするのは避けたかった
お互い居心地のいい一定の距離感でいよう、それは最初に会った時に決めたこと




ぼんやり考え事をしつつも家の近くのスーパーで買い物を終え、帰宅途中
公園の前に差し掛かった時だった

「誰か助けてー!」

子供の声にハッとして買い物袋を持ったまま公園へ走る
咄嗟に動いてしまったのはヒーロー科志望だからかもしれない
数人集まっている姿を見つけ、そちらへ場所へ向かうと大きな木の上に降りれなくなって泣いている女の子がいた

「なんであんな場所に…?」

私の声にハッとした子供達がこちらを向く

「あいちゃんが私の帽子を取ろうとしてくれたの」

「そしたらかずくんが個性であいちゃんをもっと高いところまで飛ばしちゃったの」

「俺だってあそこまでやるつもりじゃ…」

どうやら子供のイタズラが生んだ結果らしい
この男の子の個性によって降りられなくなったというなんとも子供らしい理由にどこかホッとした
ヴィランでも出たのかと思ったけれど、この状況なら私の個性で助けてあげられる
本当は個性の使用は禁止されているんだけれど誰も見てなさそうだし良いかと思った私は甘いのかもしれない

「あいちゃん、聞こえる?」

「ぐすっ、おねえちゃん誰?」

「私は雫っていうの、今から助けてあげるからね」

にっこりと微笑んでみせるとあいちゃんは不安そうながらも頷いてくれた

「みんなは下がってて」

周りの子供たちを遠ざけてからあいちゃんを見据える
ゆっくりと手をかざせば空中にある水分が集まってくるのを感じた

「凍れ」

その水分を頭でイメージした形になるよう温度を変換し水蒸気から氷にする
瞬く間に氷の滑り台が完成した

「すっげえ!」

「綺麗!」

「あいちゃん、滑っておいで」

怖がらせないように角度も緩やかになるようカーブを取り入れたそれは安全設計だ
あいちゃんは恐る恐る滑り台へ足を伸ばし、あっという間に降りてきた
その後すぐに滑り台を水蒸気に戻して証拠隠滅、子供たちを集める

「いい?個性はみんなを笑顔にするためのものなの
誰かを怖がらせたり泣かせるものじゃない…わかるかな?」

子供たちはみんな反省したように俯いている
私がこの子達くらいの年の時はずっとお父さんと個性の特訓ばかりだったからこういった悪戯はしたことがないけれど、普通の子供なら日常茶飯事なのかもしれない

「でもキミたちの個性はきっと誰かの役に立てるよ」

そう告げるとぱあぁっと顔を明るくした子供たちが私を見つめる
子供は純粋で自由で素直でとても可愛い、私もこういう時期があったはずなのにどうして今はこんなにも取り繕うようになったんだろうか

「私ね!ヒーローになりたいの!」

「オールマイトみたいなすっげえヒーローになるんだ!」

個性が浸透したこの世の中、それを悪事に利用する人たちもいる
そんな世界でヒーローという、悪に立ち向かう組織は必要不可欠なのかもしれない

「みんなはどうしてヒーローになりたいの?」

なんとなく尋ねれば子供達は不思議そうな顔をする

「だってかっこいいじゃん」

当たり前だというように返事をした子供に呆気にとられた
私がヒーローを目指すのは両親のためだ、けれどこの子たちはかっこいいという理由だけでヒーローを目指している

「お姉ちゃんはヒーローになりたくないの?」

「私は…」

両親のため、そう思ってたけどよく考えればどうしてヒーローになりたいんだろう
別にヒーローじゃなくても良いところに勤めれば両親を楽させてあげられる

言葉に詰まってしまい何も言えないでいると子供達はつまらないと思ったのかすぐに遊びに戻って行った
無邪気に駆けていくその子達と私、同じヒーロー志望なのにどうしてこんなにも違うんだろうか

「(駄目だ、帰ろう)」

ぐるぐると頭を回る自問自答
答えが出なさそうなそれはずっと私の心に残った









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