ヒロアカaqua


▼ 02



「海色さん、どうして呼ばれたかわかってる?」

そう言った担任の先生
苦笑いして誤魔化そうとするけれど今日はさすがに逃してくれなさそう

「海色さんはヒーロー科志望なんでしょう?」

「はい」

「あなたの個性はお世辞抜きでとても強力だし選択肢は多いと思うんだけれど」

先生の手元には先日提出した進路希望用紙
そこにはいくつかのヒーロー科のある高校の名前が書かれている

「書いてる高校は全部中堅、学力も申し分なしだし雄英受けてもいいと思うのよ」

雄英高校ヒーロー科
それはプロに必須の資格取得を目的とする養成校
全国同科の中でも最も人気で最も難しく、その倍率は例年300を超えると言われている

プロヒーローの中でも有名なオールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストといった著名人も雄英卒業生
つまりヒーローで成功するためには雄英が絶対条件と言われるような超名門校

「いや…私に雄英は荷が重いと言いますか…」

「そんなことないわ!もう一度ゆっくり考えてみて、ね?」

返却された用紙を持って教室に戻ると友達が近寄ってきた
その視線が志望校の欄に向けられたのを見て面倒なことになりそうだと思っていると案の定肩を掴まれ前後に揺さぶられた

「何で雄英って書かないのよ!」

「ストップストップ、一旦落ち着こう?」

友達は私のことを評価してくれてるしそれは嬉しい
けれどだからといって雄英を受けるという風にはならない

「雫、何か悩んでたりする?」

その言葉に首を横に振る
別に悩んでいるわけじゃないのだ
雄英は焦凍くんが受けると聞いているので避けているだけ

「(ずっと傍にいると本当に焦凍くんは恋愛しなさそうだし)」

そうなってしまえば許嫁の話が本格的に進んでしまいそうで正直困る
エンデヴァーも私の個性を評価しているからこそ焦凍くんの許嫁に選んだ
そんな私が雄英で鍛えるなんてしたら益々エンデヴァーの思う壺でしかない

「(なんて、悪あがきにしかならないだろうけど)」

どうせ私が足掻いたところで何も変わらない
冷めた物の考え方をしているのは間違いなくあの日が原因

エンデヴァーを前に何もできない両親、それに私
結局はそういうことだろう

私が許嫁を拒否すれば両親はきっと味方になってくれる
でもそうすることで両親が困るのが目に見えてるから大人しくしているんだ

私にとって一番大切なのは両親
二人のためなら何でもできる気がした

だからずっと本心を押し殺しいい子で居続けている
賢くて優しい海色雫という自慢の娘でいる

「(私が我慢すればいい、それでいい)」

友達を安心させるためにこりと微笑む







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ーーー





移動教室のため廊下を歩いていると雫のクラスの前を通った時アイツが笑っているのが見えた
その笑い方は作りもののそれで見ていて正直いい気はしない

雫と初めて会ったのは中学1年の時
クソ親父が勝手に決めた許嫁、それが雫だった

反発心しかない俺は初対面の雫相手に「結婚なんてしねぇ、クソ親父の思い通りにはならない」、そう宣言した
そんな俺に少し驚いたような顔をした後で雫は笑った

「じゃあ私と一緒だね」

あの時の笑顔は本心だったんだろう
親父も雫の両親もいないところで俺だけが見たその表情

あの顔を見て以来、雫が他人に作り物の笑顔しか見せていないことに気がついた
別にそこに介入するつもりはない
それぞれ家の事情があるかもしれねえし、俺がそれに気がついたところで雫の勝手だ

別に許嫁っていう形式なだけで俺たちは互いに恋愛感情なんて持ち合わせていない
雫と打ち解けるのは早かったと思う、俺と話す時に素でいる雫に悪い気はしなかったし何より話していて居心地がいい

外面は物静かで聞き分けの良いようだが実際は表情もころころ変わるし意外と子供っぽい
そんな雫を見ていると飽きないのが本音だ

「何で雄英って書かないのよ!」

雫の友人の声が聞こえた
ヒーローを目指しているのは知っている
それにアイツの個性なら雄英も合格できるだろう

「(そうか、雄英受けねえのか)」

俺は既に推薦枠の内定をもらっている
試験はまだだが問題ない
右側の力だけでNo.1ヒーローになれば親父を完全否定できる

「(そして雫を解放する)」

親同士が認めた…つってもどうせ親父が無理に雫の両親を説得したに違いない
雫は良い奴だ、そんな奴を俺の家の事情に巻き込みたくねえ

「(そうすればあの笑い方もやめるかもしれないな)」










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