ヒロアカaqua


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臨戦態勢
そんな私たちの耳に入ってきたのはテレビの音

『攫われた爆豪くんについても同じことが言えますか?
体育祭優勝、ヘドロ事件では強力はヴィランに単身抵抗を続け経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが反面決勝で見せた粗暴さや表彰式に至るまでの態度など精神面の不安定さも散見されています
もしそこに目をつけた上での拉致だとしたら?言葉巧みに彼をかどわし悪の道に染まってしまったら?
未来があると言い切れる根拠をお聞かせ下さい』

『行動については私の不徳の致すところです
ただ…体育祭でのソレらは彼の"理想の強さ"に起因しています
誰よりも"トップヒーロー"を追い求め…もがいてる、あれを見て"隙"と捉えたならヴィランは浅はかであると私は考えております』

爆豪くんの日頃の行いがこういうところで響いてくるんだから本当に気をつけて欲しい

『根拠になっておりませんが?感情の問題ではなく具体策があるのかと伺っております
それに海色さんについても同じです、彼女は言動こそ沈着冷製ですがその個性は水系統のトップに君臨すると言ってもいい強力なものです
それについて打つべき策はあったのではないですか?か弱い少女1人に全ての責務を負わせていたのではありませんか?』

『彼女のその個性を上手く使いこなすよう導くのが私の責務です
一歩間違えれば危害になりかねない強力なものであることも重々承知しております…それは彼女自身もです
その力を誰よりも正しく使おうと常に己を磨き続けています、そんな彼女に"脆弱"というものは万に1つもありません』

か弱い少女
そう表現されたことに少し腹が立った
確かに世間から見たら私は15歳の女子高生、それでも今まで築き上げてきた自身も強さもある
それを女の子だからという理由で変な前提で見られるのは屈辱だった

けれど相澤先生はそれを否定してくれた

『我々も手を拱いてるワケではありません、現在警察と共に調査を進めております
我が校の生徒は必ず取り戻します』

根津校長の言葉を聞いて爆豪くんは笑った

「ハッ!言ってくれるな雄英も先生も…そういうこったクソカス連合!」

相変わらず言葉選びが下手くそすぎるけれど爆豪くんは頭がキレる
きっと今同じことを考えているはずだ

あれだけ大掛かりな襲撃でも成果は爆豪くんと私だけ
生徒は大なり小なり怪我あるけど無事、言質も取れている
私たちはこのヴィランにとって「利用価値のある登場人物」
私たちの心に取り入ろうとする以上本気で殺しにくることはない

「(相手は7人か…方針が変わらないうちに)」

「(2、3人ブッ殺して脱出したる!!!)

言っとくが俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ!!!」

そう叫ぶ爆豪くんに本当に同じことを考えているか急に不安になった
相手の出方を警戒しつつこの場からどう脱出するかを考えるため頭を回す

「自分の立場…よくわかってるわね小賢しい子!」

「刺しましょう!」

「いや、馬鹿だろ」

「その気がねえなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを…やっちまったな」

コンプレスがそう告げる
けれど爆豪くんは口角を決して下げない

「したくねーモンは嘘でもしねんだよ俺ァ
こんな辛気くせーとこ長居する気もねえ」

「珍しく意見一致だね、私も一刻も早くおいとましたいんだけど」

するとずっと床に落とされた手を眺めていた死柄木がこちらを睨む
その目に私にも爆豪くんにも緊張感が走った

「手を出すなよ…おまえら…こいつらは大切なコマだ」

手のオブジェを顔面につけた死柄木に冷や汗が伝う
今睨まれた時確かに殺意を感じた
それでも殺さない選択をするなんてよっぽどコマが欲しいんだろう

「出来れば少し耳を傾けて欲しかったな…君らとは分かり合えると思ってた」

「ねぇわ」

「心外なんだけど」

よりによって爆豪くんと同じように思われてるなんてショックだ

「仕方がない、ヒーローたちも調査を進めていると言っていた…悠長に説得してられない
先生、力を貸せ」

その瞬間、テレビがノイズに切り替わる

「先生ぇ…?てえェがボスじゃねえのかよ!白けんな」

「ラスボスじゃないってことはかませ犬ってことでいいの?」

「黒霧、コンプレス、また眠らせてしまっておけ
ここまで人の話聞かねーとは…逆に感心するぜ」

「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」

「(いや結局死んでるし)」

ツッコミを入れたくなるけれど今この瞬間眠らされればその分自分が荷物になる
ヒーロー達のためにも何とかしないといけない

「(この場にいる全員の頭に水泡を作る…いや、窒息までの間に向こうが動けば負ける
大波を起こせば爆豪くんを巻き込み兼ねない、なら凍らせてその間に後ろのドアから)」

と、その瞬間
私たちの背後にあった扉がノックされる

「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」

その気の抜けた声に全員が油断した
それと同時に別の壁を突き破ってきたのはオールマイトとプロヒーロー達

「黒霧!」

「ゲート…」

USJの時と同じワープを使う素振りを見せたがシンリンカムイがヴィラン全員を拘束する
荼毘が木を燃やそうとするけれどそれはグラントリノに防がれた

「さすが若手実力派だシンリンカムイ!そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!
もう逃げられんぞヴィラン連合…何故って!?我々が来た!!!」

その姿に張り詰めていた気が少し緩む
そして背後から聞こえた声に振り向けばそこにいたのはエッジショット

「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ…ピザーラ神野店は俺たちだけじゃない
外ではあのエンデヴァーをはじめ手練のヒーロー警察が包囲してる」

そしてオールマイトは私たちを見た

「怖かったろうに…よく耐えた!
ごめんな…もう大丈夫だ少年少女!」

「オールマイト…!」

「こっ…怖くねえよ!ヨユーだクソッ!!!」

顔を輝かせる私と反対にいつも通りの虚勢をはる爆豪くん
うそつけ、さっきまで私と同じ冷や汗だらだらだったじゃないか

「せっく色々こねくり回してたのに…何そっちから来てくれてんだよラスボス
仕方がない…俺たちだけじゃない…そりゃあこっちもだ、黒霧
持って来れるだけ持ってこい!!!」

そう叫んだ死柄木
けれど何も起こらない

「すみません死柄木弔…所定の位置にあるはずの脳無が…ない!!」

脳無
USJの時とヒーロー殺し事件の際に現れた化け物

「やはり君はまだまだ青二才だ死柄木!ヴィラン連合よ君らはナメすぎた
少年少女の魂を、警察のたゆまぬ捜査を、そして我々の怒りを!!
おいたが過ぎたな、ここで終わりだ死柄木弔!!」

その圧にヴィランが圧倒される
私と爆豪くんの肩に触れたオールマイトの手は暖かく安心するのに立場が違うとこんなにも違って見えるのか

「終わりだと…?ふざけるな…始まったばかりだ
正義だの…平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…そのためにオールマイトを取り除く
仲間も集まり始めた、ふざけるな…ここからなんだよ…黒ぎっ!」

黒霧を呼ぼうとした死柄木
しかしエッジショットの攻撃で黒霧は眠らされた
前にUSJの時に爆豪くんが黒霧に実態があってそれをモヤで覆っているってことを暴いたことが役に立ったらしい

「やるじゃん」

「うっせぇ!評価してんじゃねえ!」

「さっき言ったろ、おとなしくしといた方が身の為だって
引石健磁、迫圧絋、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁
少ない情報と時間の中おまわりさんが夜なべして素性をつきとめたそうだ、わかるかね?
もう逃げ場ァねえってことよ、なァ死柄木聞きてえんだが…おまえさんのボスはどこにいる?」

「ふざけるな、こんな…こんなァ…こんな…あっけなく…ふざけるな…失せろ…消えろ…」

「奴は今どこにいる!死柄木!!」

「おまえが!嫌いだ!!!!!!」

そう死柄木が叫んだ瞬間宙に黒い液体のようなものが現れそこから脳無が出てくる
次々と現れるそれにヒーローサイドに緊張が走った
黒霧は気絶しているのにどうして

そう思った時、私の口から出てきた黒い液体

「爆豪少年!海色少女!」

「っだこれ…」

「体が…飲まれ…」

体内の水分とはまた違う何か
制御しきれないそれは私たちの体を包み、オールマイトの前から姿を消した










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