ヒロアカaqua


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いつだったか、お父さんが言ってたっけ

「雫、お前の個性はただの水系のものじゃないんだ」

まだ幼かった私はよくわかっていなかったんだと思う

「お前の個性は水系最強…いつかヴィランに狙われるかもしれない」

水だけじゃなく氷も水蒸気も操ることで水系・氷系・空気系個性の上位互換と化したその個性

「だから父さんと特訓しような、雫」

お父さん、ごめんなさい

せっかく特訓したのに





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どこかの部屋の中

鎖でされている私の手には個性を使用できないようにする拘束具までついている

「…よぉ、海色雫」

目の前にはヴィランであろう男
つぎはぎの顔に冷たい青い瞳がこちらを見下ろしていた

「…何が目的」

あの時狙われていたのは爆豪くんだけのはずだ、なのにどうして私まで連れてこられたのか
視界が暗転して覚えてないけれど何かの薬を打たれたんだろう、記憶がごっそり抜けている

「(それに丸1日くらい経ったんだろうか、体内の水分量が明らかに少ない)」

肝試し前に訓練をしたことを差し引いてもこの減り方は日数が経過している

「目的、ねえ…お前賢いな」

ここがどこだかわからない以上下手に抵抗して殺されるかもしれない
せめて何か打開策を見つけない限りは余計なことはしないほうがいいだろう

キッとヴィランを睨みつける
するとその男は面白そうに笑う

「あなた誰…?」

「都合のいい記憶だな」

「なにを…まさかどこかで…?」

記憶を思い返すがこの男と会った記憶は1つもない

「さあな、けどお前のことはずっと前から知っている」

「(お父さんの知り合い?)」

雄英に入るまで何かのヴィラン事件に巻き込まれたことはない
ヴィラン自体に遭遇したこともない
出会うことなんてないだろうと思うが嘘をついているようには見えない

あるとしたらお父さんが仕事関係でお呼ばれしたパーティなどの出席者

「起きたなら連れてこい」

別の人の声がして拘束具をつけられたまま担がれる
抵抗しようとするけれど手も足も拘束されていて個性も使えないようになってしまえばただの高校生
なんの抵抗もできずどかっと椅子に座らされた

「爆豪くん…っ!!」

隣には同じ椅子に拘束されている爆豪くん
同じように眠らされていた彼は目が覚めたようで私を見た後で部屋を見渡し状況を理解した
拘束されている私と爆豪くんの真正面にはヴィラン連合の面々
USJ事件の時にいた死柄木、黒霧、そして他のメンバー

「早速だが…ヒーロー志望の爆豪勝己くん、海色雫さん…俺の仲間にならないか?」

「なるわけないでしょ」

「寝言は寝て死ね」

爆豪くんも私も雄英生だ、ナメないで欲しい
冷や汗が伝う中今の状況を考える

「つーかオメェも捕まってんじゃねェぞ泡女!」

「(今それどころじゃないって!!!)」

いつものように喧嘩腰の爆豪くんに苛立つもぐっと堪える
と、その時置かれていたテレビがニュースに切り替わる

『では先ほど行われた雄英高校謝罪会見の一部をご覧下さい』

そこに映し出されていたのは頭を下げる相澤先生とブラドキング、そして根津校長

『この度、我々の不備からヒーロー科1年生31名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げますまことに申し訳ございませんでした』

メディア嫌いの相澤先生が謝罪会見に出ていることに驚く

『NHAです、雄英高校は今年に入って4回生徒がヴィランと接触していますが、今回生徒に被害が出るまで各ご家庭にはどのように説明をされていたのか、又具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください』

『周辺地域の警備強化、校内の防犯システム再検討、"強い姿勢"で生徒の安全を保証すると説明しておりました』

記者の問いに答えた根津校長
それを聞いた死柄木が笑い声を上げた

「何故ヒーローが責められてる!?奴らは少し対応がズレてただけだ!守るのが仕事だから?誰にだってミスの1つや2つある!「お前らは完璧でいろ」って!?現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ…お2人さんよ!」

「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった、これがステインのご教示!」

「人の命を金や自己顕示に変換する異様、それをルールでギチギチと守る社会、敗北者を励ますどころか責め立てる国民
俺たちの戦いは「問い」、ヒーローとは正義とは何か、この社会が本当に正しいのか1人1人に考えてもらう!俺たちは勝つつもりだ!君らも勝つのは好きだろ」

爆豪くんはともかく私はそういうのじゃないんだけど、どう見えているんだろうか

「荼毘、拘束外せ」

「は?」

荼毘
そう呼ばれたのは先ほどのヴィランの男
やっぱり思い当たる節はない

「暴れるぞこいつら」

「いいんだよ対等に扱わなきゃな、スカウトだもの
それにこの状況で暴れて勝てるかどうかわからないような奴じゃないだろ?雄英生」

「トゥワイス、お前外せ」

「はァ俺!?嫌だし!」

と言いつつトゥワイスと呼ばれた男が爆豪くんの拘束具を外していく
次いで私の拘束具
爆豪くんはただ黙って待っていた

「強引な手段だったのは謝るよ…けどな、我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむただの悪党じゃねぇのをわかってくれ、君らを攫ったのは偶々じゃねえ…」

ぺらぺらと話す私たちを連れ去ったシルクハットの男
こちらへ近づいてくる死柄木

「ここにいる者、事情は違えど人に、ルールに、ヒーローに縛られ苦しんだ君らならそれを」

私は知っている
爆豪勝己という男の子がとても賢いことを、彼がどういう人間であるかを

私の拘束具が外された時、爆豪くんが飛び出し目の前の死柄木を爆破する
こうなることは知っていたので驚かずに私も構える

「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…!馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ!
要は「嫌がらせしてぇから仲間になって下さい」だろ!?無駄だよ
俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた、誰が何言ってこようがそこァもう曲がらねえ!!」

そうだ、爆豪くんはいつだってNo.1を目指している
確かにヴィラン顔負けの素行ぶりだけれど何よりも向いている方向が違う










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